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夏は夢を見た。
雅成に買われたときの夢を。

***

  私は、プログラムミスにより色んな事が"半分しかない"そんな出来損ないでした。
  普通なら処分の所を、部品の費用も解体の費用も馬鹿にならないため、足りない部分を自分で学習させると言う試みで上から新たに継ぎ足されたプログラムが学習プログラムでした。
  それは感情、動作、性格などを主人と生活しながら学んで行くという、未だ完成には到っていないプログラムだそうで。
これを完成させられればロボットは人類に一番近い存在になると私を造った会社の技術者の方は言っていました。
  私にはイマイチ解りませんでしたけど。

  時代、と言うのは厄介なものですね。
と言うのはその技術者の方の受け売りなのですが購入者の皆さん、やはり初めから全部揃っているのが良いようで。
言葉も動作も性格も感情すら半分の私は、直ぐに返品されてしまいました。

  そんな時、八人目の購入者が桐生雅成さんでした。
雅成さんは絶対に捨てない、返品をしないと言う理由で中古として売られていた私を更に値切って買ったそうです。
  そんなこんなで晴れて私に主人が出来ました。
  私を気に入って下さっていた技術者の方は"たまには遊びにおいで"と言ってくれたので、今でも暇なときには彼女と会ってます。
  彼女は素敵なお友達です。

***

「……むぅ」
「あ、夏。お早う」
「お早うございます雅成さん」
「朝ご飯食べる?」
「いただきます」
  エプロンをつけた彼はどうやら私を起こしに来たようでした。
  ロボットの中身はずっと昔と比べて随分と人間に近くなっているそうで、私達ロボットもエネルギー補給は食事で済まします。
  太ったりもします。
  正直これは困ると友達のミクロちゃんは言っていました。

  ミクロちゃんはお洒落さんの美人さんで、性別を女にするならああゆうロボットになりたいと言う私の目標です。

「……」
「……何? じっと卵焼き見て」
「えっと。あの、質問、良いですか?」
「うん? いいよ」
「……雅成さんは、何故私を買ったのですか? ある程度の稼ぎがあるとは言え、高校生の雅成さんには大変な値段だったと思うのです」
  卵焼きを箸に刺したまま私は真っ直ぐ眼を見て聞きました。
  誠心誠意向き合うには相手の眼を見るといいよ、と雅成さんに昔教えて貰ったのです。
そうすると、向こうも誠心誠意向き合ってくれる。とも。
  しかし、彼は味噌汁を噴き、思いっきり噎せ、顔を真っ赤にしました。
忙しい人です。と言うか雅成さんの誠心誠意はおかしいです。

  そういえば技術者の方から聞いたのですが人は恥ずかしいと真っ赤になるらしいですね。
私にも構造上、それはできるらしいけどイマイチ解らないのでできません。
  少しだけ、面白いなぁっと思っていると彼は目を逸らして口を開きました。
  誠心誠意は嘘だったようです。雅成さんの嘘つき。

「……したから」
「……?」
「いまいち恥ずかしい話だが……一目惚れ、したから…だよ」
一目惚れ、と言うと見た時に好きになるあれですか。
聞くと彼は耳まで真っ赤にして頷きました。

  最近、不思議な事が面白い私です。
  雅成さん曰く、"好奇心"と言うものが芽生えた私はふと、悪戯がしたくなりました。
  嘘つきの意趣返しです。

  私はしょんぼりとしたふりをして卵焼きをもそっとかじりました。
「」では雅成さんは私の外見が好きなのですね……」
声の調子を下げつつ、頭を少し下げて、ちらりと様子を伺うと、雅成さん、今までで一番真っ青でした。
  そして、いきなり食卓を叩いて叫びました。
「それは違う!や、違わないけど……ん? 違う? うん、やっぱり違う!僕は夏の全部が好きで、えっとああ!語彙が足りない!馬鹿、僕の馬鹿!」
「嘘です」
「嘘じゃない!僕は、」
頭を抱えて天井を向いている雅成さん。それはそれで面白いけど何だか可哀相です。
「えっと、私が言ったことが嘘です」
「違う!って、へ?」
「えっと、その、"全部好き"は今ので567回聞いたので知ってます」
耳蛸です。
耳たぶを引っ張りながらべ、と舌を出すと彼はへなへなと椅子に座り込みました。
卵焼きの無くなった箸をかちかちと鳴らしてふと、思った言葉を椅子にだらりともたせ掛かっている雅成さんに言ってみました。

雅成さん、
「えー。なにー?」
えっと、私
「貴方の事、大好きです」

この言葉、安易に言うものではないですね。
雅成さんは血が上がり過ぎたのか耳まで蛸みたいになり、
口から血を吐きそうな勢いで倒れてしまったので、救急車にお世話になる羽目になったのですから。

彼が病院に運ばれたあと、私は慌てて技術者の方、ナズナさんに電話しました。
状況を聞いた彼女は大笑いしながら言いました。

"それぞ本当の耳蛸"

いや、全然面白くないですから。



ちょびっ〇に似てないかと心の中の私に言われました
ああ、確かに…orz

脱稿H22.5.16
加筆H22.9.15
迅明



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