書いてる本人が一番楽しい小説 | ナノ


[> 兎と猫




(雪の中に兎が独りぼっち!)

 兎が白いのは敵に見付からないためなんだって。
 でもね、雪原で独りぼっちになった兎は誰かに見つけて貰いたかったんだって。
 ああなんて愚かな兎!
 君を見つけてくれるのは鷹か猫くらいさ。
どっちみち君は死ぬんだよ!


【兎と猫】


 ああ、まずいなぁ。と、鳳凰はどうでもいい事のように思った。
 回りは血溜まりで、その中に人間だった肉の塊がごろごろ転がっていた。現状から見れば殺ったのは紛れも無く鳳凰で、実際もそうだった。
 簡単な任務だった。
 でもその任務に紛れた思惑がちょっとばかし厄介だった。
 そしてその"ちょっとばかし厄介な思惑"が鳳凰の背中と腕と脚に十数個の裂け目を作った。
「ああ、まずいな…」
 今度は口に出して言う。
 それは背中の致命傷でも、脚の致命傷でもない。
 今日と言う日付がまずいのだ。
 ――別に死んでも構わない。それが忍だ。
 だけど今は死ねないのだ。
 なんとか立てないものかと考えたが、どう考えてもこの怪我で立ち上がるのは雛鳥が飢えた蛇に勝より難しいだろう。
 そもそも生きて里に帰れるかすら解らないのだ。

 忍法を使うと言う手もあるが、この出血量で体を継ぎ接ぎしていると恐らく血がもたない。
 文字通り万事休す、と言った状態だった。

 血溜まりの中で、いつもより真っ赤な己の体を見ながらぼんやりと笑った。
 幼い頃、狂犬にされた話を思い出したのだ。
 雪兎が一匹で凍えていた。その兎は誰かに見つけて欲しくて懸命に唯一赤い眼を空に向けるが、一向に見付けて貰えない。
 最後その兎はどうなるのだったか。
鳳凰は覚えていなかった。
 たった一匹で死ぬのだったか、肉食動物に捕食されるのだったか。
 まあ、忍の里に伝わるお伽話の終わりなんてそんなものだろう。

(雪の中に兎が独りぼっち!)

「しかし、よりにもよって今日とは……我も運の悪い」
 ふらりと空に向けて手を伸ばす。
 唯一血で染まっていない掌を。
「すっぽかしたらアイツはなんと思うだろうな」
 ぽつ、と呟くと血溜まりの中にたゆたっていた忍のひとりが呻きを上げながら立ち上がった。
 殺し損ねていたか。
 普段じゃ有り得ない失敗も、今日なら有り得る気がして、すんなり受け入れられてしまう自分が可笑しかった。

(兎は捕食されてしまったのだろうか)

 手をそっと動かして、今だ鳳凰を探す死に損ないに狙いを定めた。しかし、
「ぐ、ぁっ」
 鳳凰のクナイがその手を離れる前に、男の首に手裏剣が刺さった。
 それによって、生命活動の停止を余儀なくされた男は、再び血溜まりに沈む。
 鳳凰が霞みの掛かった眼をしばたたかせていると、ぱちゃ、と血溜まりの中に誰かが侵入する。
「お前は、何と言って死ぬか聞いてやろうと思っていたが気が変わった」
 赤の端に突然現れた青に、鳳凰は瞠目する。
「お前を殺されるのは気が悪い、勘違いするなよ、お前を殺すのは私だからだ。それに己の生まれた日に知り合った仲の人間が死ぬのも後味の悪い話だ」
 ぐい、と鳳凰が伸ばした腕を、彼は引く。
 人の体温のするそれに、鳳凰はむず痒い気持ちを抑え切れずに笑った。
「ほら、立て。手当をしてやる」
「我が立ててたらとっくにこの場を去っている」
「だろうな、だが、気合いで何とかしろ」
 無理を言う……、軽口を叩き合って、鳳凰はまた笑う。
 ズルズルと敵対する里の友人に引きずられながら(時折傷のあるところに枝が当たるのは陰湿な嫌がらせの他あるまい)鳳凰は、兎の末路を思い出そうとした。
 それでも一向に思い出せず、尽力していたら木の根本に乱雑に放り出される。
「――――っ!」
「じっとしていろ」
「お主も怪我をしているではないか」
「ああ、ちょっと任務でな。だが私はここまでの間抜けな怪我をすることも無かったので里に戻ろうとしていたら血溜まりの中でお前が死に掛かっていた訳だ」
 苦笑いする鳳凰を見て、嫌味に笑って続ける。
「最高の贈り物だったぞ鳳凰。まさか次期頭領のお前がああも情けなく死に掛かっている姿を見れるとは」
 相手の笑顔を見て、本当に愉快そうだと鳳凰は思う。
 そういえば今日のこいつはやたらと饒舌だと思うと、何だかものすごく複雑な気持ちになった。

 複雑さと、嬉しさと、恥ずかしさ。これらをないまぜにしたこの気持ちは一体何だろうか。
 恐らく、次に眼を開いても、コイツはまだ此処にいるだろう。
 不思議な確証と共に、兎も己の気持ちも解らないまま、鳳凰は眼を閉じた。
 宵の気候は、酷く気持ちよかった。



――――

 あっ、甘いのっほのぼの甘いものっっ!と思って勢いだけで書いたらまたよくわからん話になってしまったorz
 とりあえず左右田の本名がわからんかったのと、後半の展開が無理矢理すぎること、鳳凰様を兎に例えて吐きそうになってしまったのは内緒の話。
鳳凰様うさぎて…ちょww

 とりあえず昔の左右田を迅が書くとツンデレる。非常に無念。
 あとタイトルですがこれの元になったお話のタイトルです。
 猫が兎を助けます。昔の自作です。
 決して鳳凰様が兎みたいとかそんなこといってませんよ!(;・∀・)

 こんなとこまでお読み下さってありがとうございました!

H23.05.06
:)迅明



Novel Top





- ナノ -