[> 性別未定 |
「うえぇっ!?」 がたたっ! 壁が衝撃で音を立てた。 桐生雅成(きりゅうがなる)は震える人差し指をを夏(なつ)に向ける。 「かかか、髪!夏、髪どうしたの!?」 髪、と言えば頭に生えているものでしたっけ。 そう考えて夏は頭を傾げる。 「……何処か変ですか?」 「変じゃ無いよ!変じゃ!むしろ似合ってるけどどうしたのいきなりそんなに短くして!」 「あ、それですか」 そういえば今日、専門店で短くして貰ったのでした。 前は伸びに伸びきり、腰まであったから、そのギャップでびっくりしているのかも知れないです。 慌てる雅成を見ながら夏は一人思考した。 雅成は自身が溺愛する夏の事となると些か大袈裟過ぎる程に反応を示すのだ。 「雅成さんが男好きだと聞いて理想に近づこうとしたんですが」 言うと、彼の色白い顔がみるみる内に真っ赤に染まった。 その顔が不思議で夏はまた首を傾げる。その動作がまた型に嵌まって可愛らしい。 (そういえばこの動作も彼に教えて貰ったんだっけ) 思い出しながら手慣れた動作で、夏は雅成の制服のネクタイを緩めに掛かった。 「性別、決めたの?」 不意に雅成がそう言ったので夏はいえ、と答えた。 「それは私個人では決めかねます。それに、設定されている主人、雅成さんの同意がなくては変えられません」 「そっか」 そう。夏達ロボットには性別が無いのだ。 普通はロボットを購入した時に主人が決めるのだけれども雅成はそうはしなかった。 後々疑問に思った夏が聞くと"それは夏が決める事だから"と言ったのだ。 その時、私には決めかねますと言ったのだが、彼は"何時かきっと選びたいと思う時が来るから"と言った。 でも、未だに夏は選べない。 「雅成さん、」 解いたネクタイを置いてシャツのボタンを外しに掛かろうとしたら、赤面した雅成に止められた。 夏にはそれが何故なのか、やはり解らない。 彼は夏に内蔵されたマニュアルにはない言動ばかりをするのだ。 ロボットは召し使いの役割をするものの筈なのに、彼は夏を従僕として扱わない。 そして、それは時々酷く夏の好奇心をくすぐる。 「雅成さんは男が好きなのでしょう?」 「うん? そうだね、確かに男の方が好きだけど……」 「だったら私、男になります。初期の設定上、外見は女ですが性別を決めれば基盤を残して少し変わる程度なのでたいして顔の作りも変わりませんし」 手の空いた夏はネクタイをくるくると巻きながら言う。 そうだ、ロボットはそうあるべきなのだ。 しかし雅成は難しい顔をしてぴしゃりと言った。 それは駄目だ、と。 「僕は夏が好きだ、わかるね?」 「はい、その発言は今回で1026回目になりますので」 さらりと言われ、出っ鼻を挫かれた雅成はうっ、と呻いた。 「……かっ、数えないで頂けると有り難いんだが……恥ずかしいし…まあ、それは置いといて、だ 僕は夏が好きで好きで大好きだ。素直に、何の欺瞞も嘘もなく"好き"と言える程愛している。正直此処まで来ると狂愛の域かも知れない 故に僕は夏が男でも女でも存分に愛せると言う自信がある、だから気にせず好きにしてくれ。決めかねてるのならずっとこのままでも良い」 わかった? 聞かれて曖昧に頷く。 あれ?でも、それじゃあ。 「雅成さん」 「なに?」 「性別なくちゃやらしい事が出来ませんよ?」 「いや、しなくて良いから」 びしっ、と手の動作付きで言われて思わず困惑してしまう。 夏は造った会社の技術者から大抵のロボットの購入目的は性行為目的だから気をつけるんだよと言われたのだ。 従僕としてではないならそうなのかと思ったのに。 (……あれ?) そこでふと、夏は思った。 ――だったら だったら何故、私は彼に買われたのでしょうか? 何故、彼は私を買ったのでしょうか? 夏には全く解らなかった。 恥ずい、書いてて恥ずいぞこの男(((゜Д°;))) 脱稿H22.5.16 加筆H22.9.14 迅明 Novel Top |