[> 水夢 |
今、夏は夢を見ていた。 湖の、大きな湖の少し上を夏は飛んでいて、辺りは何処までも湖が続いている。 湖には夏しかいなかった。 寂しい、と夏は思った。雅成を捜した。 ―――雅成さん、雅成さん。 いくら呼んでもだだっ広い湖が広がるだけである。 もしかしたらこの水の中に雅成がいるのかも知れないと足元の水を見て夏は思ったけれどこの湖の水は何故か恐かった。 雅成さん、雅成さん。 頻りに名前を呼びながらとぼとぼと夏は空を歩く。 すると後ろから誰かが、なつ、と呼んだ。振り向くと雅成がいた。 夏は嬉しくて嬉しくて雅成に抱き着いた。 夏が笑うと雅成も笑う。 夏は雅成が笑ってくれる事に心地好いものを感じた。 雅成さん、雅成さん。 名前を呼んでぎゅうっと雅成を抱きしめる。雅成は夏を抱きしめながら愛してると呟いた。 途端、夏の心地好さは何かちりちりとした感覚に覆われる。 どうしよう、と夏は思った。 どうしよう、私は愛の意味を知らない。雅成さんはたくさん愛と言うものを私にくれるけど私は雅成さんに何もかえせちゃいないのだ。 ごめんなさい、雅成さん。 きっと何時か学びますから。 何時か返しますから。 泣きそうになりながら夏が言うと雅成は苦しそうに笑って夏の額を撫でた。 ごめんね、なつ。ごめんね。 謝りながら笑って雅成は消えてしまった。 失ってしまった。と、夏は思った。 失うと言うことは悲しい事なのに。 雅成さんは大切なのに。 夏は嗚咽をこぼしながらその場にへたりこんだ。 水には相変わらず触れなかった。 でも涙は水に混じる。 ぽたぽたと波紋を作る。 寂しい夢だった。 悲しい夢だった。 初めて見る夢なのに。 夏は悲しくて悲しくて堪らない。 雅成さん、と夏は呟いた。 涙を拭う。あとからあとから溢れる涙を拭う。 拭っても拭っても涙は溢れて水面に消えるばかりだった。 . Novel Top |