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[> 喉笛。[四→左]




「斬れば血が出る、当然だ。殴りゃあ痣になり、首を捻れば死ぬ」
 そこまで言って、奴は喉の奥を低く鳴らした。
 毒刀が鈍く光る。
 私は掠れた咽で問うた。

「お前は、誰だ」
 奴はあいつの喉で答えた。

「おれは四季崎記紀だ」



―――【喉笛】。



 ――おれは四季崎記紀だ。
 それを聞いて自分はまず目の前の奴に殴り掛かったのだったか。蹴り掛かったのだったか。

 良く覚えていない記憶の代わりに結果は雄弁に物語る。

「駄目だな、駄目だ。迷うなんて大馬鹿だ。なぁ? お面の兄ちゃん」
 四季崎の足が鳩尾に食い込み、尋常ではない痛みが身体を走った。
「っぁ! ほうお、う……っ」
「なんだ? お前“こいつ”と恋仲だったりしたのか?」
「違、う」
「速答か。酷いな」
 くつくつと笑いながら奴は屈み込む。
みしみしと腹が軋んでいる気がした。――腑を直に潰されているからそんな風に感じるのか。それとも本当に軋んでいるのか。
 どちらにせよ命の危機が迫っていることは間違いない。
 あいつとは違う笑い方で、主の先祖は笑う。
それがどうにも我慢ならなかった。
「なあ、兄ちゃんよお。お前、昔はこいつと友だったのか? 駄目じゃねえか。友は大事にしなくちゃ。そういやあ俺にも昔、友達とかいたっけなぁ……」
「お、前はっ、……っ! 記憶まで――は、ぁっ……ぐぅ、っ」
「ご明答だよ。俺は知ってるぜ? こいつの記憶。お前も随分風体を変えたな。陰気になったと言うのか、辛気臭くなったと言うか」
 右衛門左衛門は答えない。
ただただ苦しそうに息をしている。
「しかしこいつ……いや、俺も酷ぇよな。いきなり裏切って顔を剥いじまうなんてよ。せっかく面は綺麗だったのに」

 一度毒刀を離し、鞘を横に向けてもう一度圧迫する。
「――おい、右衛門左衛門。こっちを見ろ」
「――っ厭、だ」
 頬を掴もうとしたその手を右衛門左衛門は払いのける。
 それに四季崎は顔を歪め、何を考えたかすらりと毒刀を抜く。

「鬱陶しい手だ」

 その黒い刃を向けられ、右衛門左衛門は四季崎が何をしようとしているかを悟った刹那。

「――――ッ!」
その刃はいともた易く右衛門左衛門の手の平を地面に縫い留めた。
 痛いのか苦しいのか気持ち悪いのか。汗が頬を伝う。
 仮面が剥がされ、苦し気に歪んだ顔があらわになり、四季崎は笑った。満足そうに。

「あーあ……綺麗な面だったのになぁ。傷痕がついちまって台なしだ。兄ちゃん知ってるか? こいつ、お前のその面が好きだったんだぜ。だから剥いだんだとよ。断ち切る為に。馬鹿だと思わねぇか?」
「――そ、んな戯言っ」
「酷いな、戯言扱いか。それでもこいつはお前を忘れられていない。なあ兄ちゃん、お前は、こいつが、嫌いか?」
一言一言言い聞かせるように、舐めるように四季崎は言う。

「嫌い、だ!」
「少し反応が遅れたな。揺らいでる証拠だ。――ほら、この手も、この目も、この唇も声も熱も、お前の"お友達"のもんだよ」
「違う、お前は鳳凰じゃない」
「即答か、凄いな。やっぱお前、コイツが好きなんだろ。
――なあ、『左右田』だったか? それとも『右衛門左衛門』か。どちらでもいい、その毒刀の傷から血が出切っちまうまで――俺はお前を愛してやるよ。傷痕から全てを」
「―――なっ、」
 首筋に熱を感じて右衛門左衛門は必死に身をよじった。
 気持ち悪いなあ、と四季崎は呻く。


(魂が軋む。身体が反抗する)
 馬鹿言え、冗談じゃない。

(意識が飛びそうに)
 ―――こいつは我のものだ。

「斬れば血が出る、至極当然。殴りゃあ痣になり、首を捻れば死ぬ。道理は道理だ」
 そこまで言って、奴は喉の奥を低く鳴らした。額には汗の粒が浮かんでいる。
 手の平から毒刀が引き抜かれ、右衛門左衛門は驚きながらも掠れた咽で問うた。

「お前は、誰だ」
 奴は奴の喉で答えた。


「我はお前だ、右衛門左衛門」




◇◇◇

なんてはた迷惑な取り合い
子供の取り合いで先に手を離した方が本物といいますが、こいつらは(左右田が)痛がれば痛がる程引っ張るタイプでしょうな

鳳凰様左右田にべた惚れフラグ
四季崎左右田に一目惚れフラグ
(なんてはた迷惑なフラグ達)
左右田鳳凰様に少しデレフラグ

四季崎鳳凰様から戻ったばっかりの鳳凰様は少し優しいといいねーと独りで妄想してました´ω`

馬鹿だ私は

:)迅明



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