[> こんにちは蝉さん |
カッコイイも好きも言ってやんないんだからっ! *** うっわぁぁあ! と何とも言い難い悲鳴が上がりました。 ミクロちゃんです。 それを聞き付けてか、春夢さんが瞬時にリビングに駆け込んで来ました。少し遅れて雅成さんも。 丁度晩御飯の支度をミクロちゃんとしていたのでした。 「はっはるゆめぇ……!あれ、あれ!」 半泣きでミクロちゃんが指を指した先には蝉と呼ばれる虫が居ました。 夏にみんみん鳴く奴の違うバージョンです。 「蝉、蝉!嫌だ、蝉怖い!」 叫んで春夢さんの胸元に顔を埋めるミクロちゃん。 一方の春夢さんは何だか凄い幸せそうです。 ちょっと笑顔です。 それでも声だけは真剣に、“大丈夫かミクロ、俺がついてるぞ”などととても格好の良いことを言ってらっしゃいます。 ラブラブです。 「じゃあ雅成頼んだ」 「いや、お前が行けよ」 「そうしたいのは山々なんだが俺は滅多に無いこの至福の塊を抱きしめていたい。つーことでヨロシクッ!」 「…………」 「ぐっ、ミクロ痛い痛い痛いそこ駄目そこ痛い凄くあいたたたたたたたたっ!ゴメンゴメン痣になっちゃう痣になっちゃう!!」 かろん、 ボウルに入った氷が音を立てました。 そういえば先程から手を氷水に付けっぱなしだったんですっけ。ほっぺに当てたら鳥肌が立ちました。 全部が半分の私は感覚も半分なのです。要するにいろいろ鈍い訳です。 心は学習プログラムで大分補われて来ていると、研究所の方は言ってましたが、感覚の“感じ方”はともかく、そういった感覚はやはり人工的に補って行かないといけないそうです。 曰く『夏のご主人からマージン上乗せして費用を少しずつ分捕って……あっ、やっ、しゅ、修繕費だけしかとらないから、うん!ダイジョウブダヨー』とのこと。 凄く嘘臭かったです。 何はともあれ。 「蝉、捕まえなくちゃ」 「えっ、夏ちゃん蝉捕まえちゃうの!? 勿体なぁああっ!痛い!ごめんなさい!」 「なっちん早く捕って窓のそとポイして!ポイっ!」 「……はぁ、」 何だかお二人の言うこと食い違っているのですが。 取り敢えずここは雅成さんに意見を求めましょうか。 そう思って雅成さんをちらり見ると雅成さん、既に虫捕り網を装備して蝉に向かって行く最中でした。 「雅成さん、」 「しー、ちょっとだけ静かにしてて?」 「……はい、」 息を潜めて天井近くの壁にとまった蝉ににじり寄って行く雅成さんを見ながら、私は思わず手をグーにしました。 緊張します。 「えいやっ!」 「おおっ」 「お見事っ」 そう叫んだのはミクロちゃんでした。 何だかもう平気みたいです。 捕まえられた蝉は白い網の中で静かにもがいています。蝉なのに何故かミンミンもジージーも言いません。静かにもがいています。 不思議に思って首を傾げると雅成さんは逃げられないように網の口を手で縛って笑いました。 「鳴かないのはこれがメスだからだよ」 「メス?」 「女の子ってこと。蝉のメスは鳴かないんだ」 と言う事はこの虫は夏にみんみん鳴く奴の鳴かないバージョンの違うバージョンな訳ですか。 「雅成さん物知りですね。カッコイイです」 何だか幸せな気持ちになって笑って言うと、雅成さんはほっぺを少し赤くして「有り難う」と笑いました。 いつの間にか蝉が網の中でもがくのを諦めていました。 それを見て、何と無くミクロちゃんの方を見ると春夢さんと喧嘩しておりました。――と言うよりいつまでもミクロちゃんに抱き着く春夢さんを一方的に殴ってました。 それでも春夢さんは幸せそうなので見なかった事にしておきます。 ――――あ、そういえば。 「雅成さん雅成さん、やってみたい事があったので少し屈んで貰っても宜しいでしょうか?」 「? いいよ?」 「有り難うございます、」 言って、私は雅成さんの頬っぺたに顔を近付けて。 軽い音は鳴りませんでしたが、変わりに唇をぎゅっと押し付けてから離してみました。 今日、少し気になったこの行為。 雅成さんの反応を窺って見ると。 「―――――っ!?」 「あら、」 この間の耳蛸事件より真っ赤でした。 「雅成さんお顔真っ赤ですよ、大丈夫ですか?」 「いっいやいやっ、大丈夫大丈夫多分っ! 僕は男だからね!」 「それは存じてますが……あ、そうだ」 そこで私は手を冷やした事を思い出して、雅成さんのほっぺに手を当てました。 「……ひんやりんこ?」 「ぐはっ!」 ばったーん! 盛大に音を立てて雅成さんは動かなくなりました。 どうしようと思ってミクロちゃん達の方を見るとミクロちゃんの足元には動かなくなった春夢さんが。 「……お見事?」 「イェーイ」 へらりと皮肉気に笑ったミクロちゃんはとても爽快そうな表情をしておりました。 終 *** このおバカっ!と思わず私が叫んでおりました そこでこのおバカどもの親の私が一番おバカな事に気づきました 駄目だこりゃ :)H22.10.24 :)迅明 *** ボーナスStage* こんなのも浮かびましたが編 「メス…と言うとミクロちゃんはメスですか?」 「うん、まあそうなるね」 「ではメス牛で、メス兎ですね」 「うーん……そうなるのかなぁ……? なんか違う気が…」 「そうなんですか? でもテレビでメス豚とかメス狐とかメス猫とか言ってますよ?」 「なっ、そんなこと覚えちゃいけません!」 「そうだぞなっちん! 正しい言葉を覚えなくちゃ!」 「正しい言葉?」 「そうだ! 正しくは女狐と発情猫だ!」 「正しい言葉の意味が違あぁう!」 収集つかなくなったので没 ボーナスStageまで有り難うございましたー! Novel Top |