[> カーネーションBoy2 |
切符を買うときは大抵、仏花を持ってそれをする彼 ここらじゃちょっとした有名人だったりする 切れ長の双眸に、首筋に傷痕 "筋者かもしれない" 皆そう言って噂する 近づいちゃ駄目よ、母さんは随分前にそう言った でもね母さん、ぼくはね、 あのお兄さんが嫌々切符を買っている様にしか見えないんだ 切符を買うのを哀しんでいるようにしか見えないんだ それって、 おかしいことなのか、 いっつも考える 「やっほー!こんちゃーお兄さん」 「まーた、お前か坊主。友達居んのか?毎回毎回仕事に行く途中に話し掛けやがって」 「あーあ、そんな事言うんだ。ひっでぇ大人。ぼくはぜっったいこんな薄情で、モテなさそうな童貞の大人にはなんないぞ!」 「ちょっと待て、お前。それは誰の事だ?」 「え、お兄さん」 「泣かすぞこのチビ!」 「やーだプー!外見で人を判断しちゃいけないんだぜ、了見の狭い大人って悲しいなぁあ」 「んだとコノヤロー!」 お兄さんがぐっと拳を握ったのを見てぼくは一歩後ろに下がった 今日はここらが引き時らしい そう思ってがちゃがちゃと煩いランドセルを鳴らしながら踵を返す 「へへーん!悔しかったら捕まえてみなぁ!」 あっかんべーをして走り出すと何時も通りお兄さんは追っ掛けて来なかった へへっ、ちょっといい事をしたような晴れやかな気分 チラと振り返れば券売機の前に立つお兄さんが持った仏花がちょっと揺れていた 聞こえないようにぼくは口の中で呟く (気をつけて行ってらっしゃい) 明日もまた遊ぼうね Novel Top |