嘘を吐くことが日常だ。
だって、私は女だけれど、身体は男なんだから。
見た目の問題とか、そういう面で私は男として学校に通っている。
でも、中学校から高校に上がり、三年生になって。
私の身体は、おかしくなった。
胸が膨らんで、声が高くなって。
ただ、どうしたらいいのかわからなかった。
この病気のことで虐められるだなんて、絶対に嫌だ。
でも、どうしても心と身体の矛盾が気持ち悪かった。
矛盾
「仁王くん、おはよう」
「うん、おはよう」
女の子の挨拶に軽く頭を下げる。
そこからは踏み込まず、そそくさと席へと向かう。
座ったらすぐ机と結婚。
はぁ、と深い溜息をついた。
「仁王、おはよ」
「んー、おはよう」
思いのほかだるそうな声が出て、パッと口を押さえた。
素の声が出るところだった。
「おいおい、ちゃんと寝てこいよ」
「うん、わかっとうよー」
「この前も言ったじゃねえかそれ!」
あははは、とまわりが笑う声に合わせて笑うけれど、別に私は寝たくなくて寝たいわけじゃない。
不眠症なだけだ。
「あ、仁王、宿題。写させてくれよ」
「また?ちゃんと宿題やってきんしゃいよ」
仕方ないな、とノートを渡すと、あんがとなってお礼を言われる。
その度、ああ、ばれてないんだって安心する。
ばれたら、終わってしまうから。
わざわざ自分を抑えて過ごしている意味がなくなってしまう。
「ええよ、気にせんで」
にこ、と笑いかけると、相手はあ、ごめん、と表情を崩して、顔の前で手を振った。
あ、もしかして、これは。
「ちょっと女子みたいに見えてよ」
ああ、やっぱり、と思うのと同時に、まずいな、と思った。
仕草に女性的なものが混じってしまっているのかもしれない。
気をつけなきゃ、だ。
私はわざとらしく眉間にしわを寄せて、相手にデコピンを食らわせた。
「男相手に女子だなんて、失礼な奴なり」
そういうと、相手はあはは、ごめん、といいながら席に戻っていった。
放課後、私の所属している『男子テニス部』にむかうと、途中で同じクラスの丸井につかまった。
面倒くさい。
「さきいくなっつーの」
上から目線に言ってくることにイラッとして、私は笑顔で彼を罵った。
「おうおう、すまんかったの、あんま遅いんで置いていってもうた、ほんに反省しとるよぉ、許して、丸いブタくん!!」
最後ににや、と笑ってやり、自分より低い位置にある肩にポンと手を置いていうと、彼はすぐに怒り出した。
「てめえ、仁王!!」
あはは、と笑って部室まで追いかけっこ、なんて発達異常の私に出来る筈もなく、すぐにつかまったけれど、そんな言い合いが凄く楽しい。
楽しいけれど、私だって女の子なんだ、女の子らしいことだってしたのに。
外見が男だから、それすらできない。
しかも、外見は男のくせして、髭も生えない、肌もきめ細かくて綺麗だし、それに華奢だ。
男のくせに、男らしくない。
でも、男らしくないくせに、女じゃない。
女じゃないのに、心は女。
こんな楽しい時すら、私はこの身体と心の矛盾のせいで、心から楽しめないでいる。
ねえ、どうして私は私になれないの。