02:深愛 [ 2/3 ]



「なあ、嫌じゃ、置いてかんで!!嫌わんで、嫌じゃ、嫌!傍にいて…!!!」

嫌ったりするわけ、ないじゃない。

それは確か、一年後半の頃。
たった2ヶ月で、仁王は俺に依存しきった。
そしてまた俺も、仁王に依存しきっていた。
お互いが居ないだなんてありえないし、片時も離れたくなかった。
仁王は顔がきれいだから不安で、なおさら。
で、結果その不安は現実になってしまった。
精液と血にまみれた仁王に駆け寄って、必死に呼び掛けた。
そして、目覚めたと思ったら、安心する間もなく、嫌わないでと泣き喚いた。
胸が、引き千切られるかと、思った。
仁王は息も途切れ途切れのまま意識を無くして、どきりとしたけれど、握った手は暖かくて安心した。
気絶した仁王の耳元で、俺はずっと「愛してる」をささやき続けた。




「ねぇ嫌だよ、仁王、置いてかないでよ。いかないで、いっちゃ嫌だよ。傍にいてよ…?」

「すまんの、ゆき」

俺と仁王を隔てる5メートルの距離と、柵。
そんな、嘘、でしょ。
これは夢で、目が覚めたら、また、笑いかけてくれるんでしょ。

「ゆき」

「!!まっ」

「愛しとうよ」

押し出して伸ばした手は、指先をかすって空を掴んだ。



目を覚ますと、よく知っている自分の部屋。
あれは、夢だったのだろうか。
ずきずきする頭を押さえて、身仕度を済まし、学校、部室に向かった。
すると、怒鳴り声が耳をつんざく。
朝から頭が痛くて機嫌が悪いのに、一体何があったんだか。

「ハルがんな事するわけねぇだろ!?お前何言ってんだよ!!」

「…でも、皆が。俺だって先輩はそんなことしねぇって思ってますよ!」

「どうかしたの?」

声をかけると、赤也はびくりと肩を揺らして、丸井は不機嫌さを隠そうともせずこちらを向いた。

「赤也の馬鹿がハルがヤクやってるとかほざきやがって…」

「…なにそれ。どういうこと?」

幸村もむ、と眉を寄せて俯いてしまった赤也を見た。

「クラスの、奴等が…先輩に聞いたって」

困ったように涙目になる赤也を責めるつもりも起きなく、ため息を吐いて赤也を撫でた。
その時は俺も、現状があそこまで悪くなるだなんて思っていなかったから、気が楽だった。
丸井がいるから、心配もあまり、していなかった。
眠くて聞く必要があるのかもわからない数学の説明を聞きながら、考えるのは仁王のこと。
今の気分はどう?
痛くない?
辛くない?
淋しくない?
苦しくない?
もっとお前の事、教えてよ。
数週間前から仁王は、どんどん話さなくなってきている。
表情の変化も乏しい。
俺の前でさえ。
行動も受動的だし、元々痩せていたのがもう病的に痩せ細ってしまって。
仁王のことこれだけ愛しているのに、何もできない。
力になれない。
一緒に屋上で空を見ていた横顔がフラッシュバックしてきて。
また、あんなふうに出来たらな、とか。

「体調が良くないので保健室行ってきます」

静かに席を立って、教室を出る。
それから、走って屋上に向かう。
屋上のドアをガチャリと開ける。

「…仁王、」

日陰になるところにちょこりと座り込んだ人影に声をかける。
すると確かめるようにちら、と仁王はこちらを覗き込んだ。

「…ゆき?」

影を落としたままの顔が俺の名前を呼ぶ。
それでも、仁王が少し嬉しそうなのは、気のせいではないと思いたい。
隣に座ると、こてん、と寄り掛かってきて、そんな些細な事も、幸せに思う。

「日向、行かないの?」

返事は分かってるけど、何となく。
沈黙が、苦しくて。
すると、仁王がくす、と笑うから、どうしようもなく仁王を見ると、暖かい笑顔で。
ついそれに照れて赤くなってしまう。

「わかっとるくせに。暑いとこ、苦手じゃて」

「うん、わかってるよ」

傷んではいるけれど指通りのいい髪を指で遊ぶ。
銀が空の青と日差しの光に染まって、とても綺麗。
手にとった一束にキスすると、仁王はくすぐったそうに身をよじった。
こういう一瞬一瞬が愛しくて、幸せで。
ずっとこうしていたいと思う。

「ゆき、おれ、お前さんのこと、愛しとうよ、好きじゃ」

また幸せそうな顔をするから、俺まで幸せになる。
たまらなくなってキスすると、びっくりしてから、ゆっくりと応えてくれた。

「、ふ」

顔を離すとほんのり赤くなって、やっぱ生きてるんだって、幸せになれるんだって。
そう思った。

「のう、ゆき」

「なに?」

「おれが死んでも、泣かんでね」










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