幸村宅にて
「嘘に嘘を重ねたら、それは本当になると思うかい?」
俺は仁王に問い掛けた。
仁王は訝しげに顔をしかめたあと、ならんよ、と答えた。
そう答えた仁王は“いつもの顔”だった。
笑っているけど、ちゃんと見ているようにみえるけど、感情があるようにみえるけど、本物じゃない、顔。
世の中を斜めに見ている本心を隠すような無表情。
「なんでならないと思うの?」
「ううん…ええか?理科、と同じ考え方じゃき、水に水足しても、硫酸にはならんじゃろ?水にどれだけ水を重ねても、硫酸にはならん、つうことかの」
「なんか考え方、えげつない」
「そんなことなかよ」
その無表情に浮かぶ、口元の笑み。
俺は唾を飲み込んだ。
こいつはどうしてこうも、相手を魅了する笑みを浮かべるのか。
仁王は顔を反らし、ふぅ、とため息を吐いた。
「ゆっきー」
「…なに?」
「なにって、したいんじゃなか?相手しちゃるぜよ」
俺はにこりと笑って、ばれちゃったか、と漏らした。
ああ、負けた。
俺は別にしたいだなんて思っていない。
探っていたのだ、仁王の詐欺の矛盾点を。
いや、わからない、辻褄があっているところを探していたのかもしれない。
仁王の詐欺は、矛盾と、一貫された辻褄が重なっているから、入り込めない。
そして、探られていることに仁王は必ず気付くのだ。
だから、こういうふうに話を折る。
仁王の首筋を口でなぞると、ぴくり、と震えて、はぁ、と息を吐いて、笑みを浮かべた。
「お前って、本当」
「なんよ」
俺は何でもない、と答えて、仁王の首筋に顔を埋めた。
そのまま息を吹き掛けると、仁王は体を強ばらせて掌を握り締めた。
「はぁ、ふ…焦らしよって…」
「好きでしょ、焦らされるの」
仁王はにやり、と笑みを浮かべた、妖艶な笑み、だ。
口端をぺろりと舐めあげ、キスを仕掛けてくる。
俺もそれに応える。
絡めた舌は熱く、熱があるんじゃないか────って
「仁王、お前、風邪!!」
「…、はぁっ、はー、はー、は、あぇ…?」
「口、お前が風邪引いた時の味する…!」
「あたま、いた…」
俺は頭を抱えた。
風邪ひいてるの、なんで気付かないんだ…!
ここ「…まできて、やめんの…?」
「…いや馬鹿?馬鹿なの?お前、風邪引いてんだよ?」
「大丈夫なり…!ていうか、おまんががっつくから、勃った…」
「お、お前って奴は…知らないよ」
俺は仁王をベットに押し倒した。ああ、甘い。
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仁王が幸村宅に行く幸仁甘甘
はじめに書いたやつがあんまりひどかったから書き直しました…。こちらをお持ち帰りして頂けると嬉しいです、すみません…!
私が風邪ひくと口の中甘くなるんですよ…
そんな話でした