現パロ。完全に日本式バレンタイン。
大学生設定。シーザーがスケコマシてない。





大学入学当初、私はシーザーが苦手だった。シニョリーナ、と甘めに調整した声で話しかけられ全身がぞわっと粟立ち、口許の筋肉は引きつった。
無理もない、私の育った環境では女性と見れば見境なく(おっとこう言うと失礼かな?)口説いてくる男性なんていなかったし、男女平等を掲げ性別に関係なく友情を築いてきた私の理念が全力で拒否したのだ。
男女間に明確なボーダーを引いて接するシーザーという男を。
差別化された上で、例え自分が優遇される方であってもやはり嫌だった。シーザーと軽口をたたき合える男友達が羨ましかった。


ついにある時、シニョリーナ扱いに耐えきれなくなった私は鳥肌の立った腕を突き付けながらシーザーに啖呵をきったところから口論に発展する。

『もうそのシニョリーナ扱いはやめて!私の事は男だと思って接してよ!シーザーに女性扱いされる度不快で不快で堪らないの!』

『それは無理なお願いだね、シニョリーナ。君がスカートの似合う立派な女性である限り、女性に対する敬愛の意識は捨てられないよ』

こんなカンジで自分達の主張を並べ徒らに時間を消費し、平行線を辿るのかと悔しくなった時、絶縁覚悟で本音をぶつけた。

『私は・・・ジョセフやマルクみたいに、シーザーとも仲良くなりたいだけ。馬鹿な事しでかして笑ったり、気兼ねなく何でも言ってほしいだけ。それが性別に邪魔されるなんて嫌だ。

・・・この考えに同意できないなら、もう私に話しかけないで』

柄にもなく涙声になり、あぁ、これじゃシーザーの良く言う「守ってあげるべきか弱いシニョリーナ」に該当してしまう。そう思って、言うだけ言ってその場を逃げた。



『負けたよ。お前の言う通りだ。悪かったな』

後日。初めてシニョリーナ扱いの外れた話し方で伝えられたのは、謝罪の言葉だった。この日から、シーザーとは本当の意味で友達になれたと思う。





バレンタイン当日。今日は土曜日だ。友達とは昨日お菓子をプレゼントし合ったし、恋人もいない私は自由きままな普通の土曜日。
男友達にももちろんお菓子をプレゼントしたが、シーザーはスケコマシのためたくさんもらうだろうと踏んだ私は、シーザーにだけは甘い物に合うコーヒー詰め合わせをプレゼントしたのだった。

そんな私は大学に課題を片付けるため来ていた。土曜日なので人も少ない。開放された空き教室に課題を持ち込み、辞書と資料と睨めっこだ。長期戦になる事を見込んで非常食、作ったクッキーの余り物も持ち込んだし準備万端である。

その後しばらくは順調だったが、集中力を切らして腕を伸ばした時、引き換えに襲って来たのは睡魔だった。目を休めるため腕を枕に、机へ横向きで伏せ目を閉じたが最後。その後の記憶はない。





誰かに頭を撫でられている。こんなに優しく、継続して撫でられた記憶なんて小さい頃、お母さんに添い寝してもらっていた時以来だ。そうそう、こうやって私が眠ったと思ったら髪を優しく掻き上げて額にキスしてくれて。何度か寝たフリしてお母さんが部屋から出る姿を見送ったんだよなぁ。

今日はまだ撫でてくれるんだね。嬉しいな・・・

薄っすら目を開ける。確認出来たのは袖を捲った逞しい腕だ。・・・あれ?お母さん?ゆるゆると視線を辿ると、そこに居たのは片手で頬杖をついてこちらを向いているシーザーだった。

「おはよう、寝坊助」

何でここにシーザーがいるんだっけ?とぼんやりした頭で考えを巡らせていると、シーザーの背後の景色で急に思い出した。

そうだ大学だ!!

「うわあああ寝てた!!」

勢い良く頭を上げるとシーザーが広げた片手をパッと上げた。頭撫でてたのシーザーだったのか!

「ちょっとシーザー!!寝かしつけてないで起こしてよ!!」

「あぁすまん。あまりにもぐっすり寝ていたから起こすのも気の毒かと思ってな。

ぶっ!顔に服のカタついてんぞ」

「だまらっしゃい!あああもう寝るつもりなかったのに・・・!」

時計の針は最後に確認してから優に1時間は経っている。そしてハタと思う。

「あれ?シーザーいつからいたの?というか何でここにいるの?」

「俺も課題をしにきたんだ。適当な空き教室を探していたら誰かさんがここでぐっすり寝こけていてな」

「そういう時は起こすのが優しさですー!」

なるほど、シーザーの前にもテキストが広がっている。

「じゃあこれは優しさに入らないか?」

そう言って差し出されたのは缶コーヒーだった。わぁ助かる!

「優しさですありがとう!」

「ったく現金な奴だな」

シーザーから缶コーヒーを受け取ると、シーザーも自分の缶コーヒーを開けた。準備がいいなぁ。

私も缶コーヒーを開け、眠気覚ましに一口飲む。その苦さにマッチしそうなクッキーの存在を思い出した。鞄を漁りクッキーの入った紙袋を取り出す。

「おやつにちょうどいいや。コーヒーのお礼になるかはわからないけど、良かったら一緒に食べよ?」

「何だそれは?」

「バレンタインの余ったクッキーだよ!」

「見た目が随分お粗末だな。手作りか?」

「だまらっしゃい!手作りは難しいの!!」

全くもう!他の女子にだったら「君の作った物ならどんなものだって宝石に見えるよ」とか言うのに何だこの差は!!・・・と思うものの、シーザーとこんな風にふざけあえるのが堪らなく楽しい。これが私の望んだシーザーとの理想の関係だ。

「・・・何笑ってんだ、不気味だな」

「失礼な!いや、やっぱりシーザーとのこういう遣り取り、すごく好きだなって。シーザーは自然体の方が良いよ、絶対」

「・・・・・・」

あれ、照れたのかな。
動きが止まった様に見える。可愛いモンだなぁと思いながらクッキーに手を伸ばし、1枚掴んだところで何故かシーザーにクッキーの入った紙袋を奪われた。

「え!ちょっと?!」

「お前、昨日俺にコーヒーだけ寄越してくれたよなァ?」

「うん、そうだよ?シーザーバレンタインいっぱい貰いそうだから、甘いものに合うコーヒー厳選したんだから!」

「俺はコーヒーにクッキー派だ。という訳でコレをもらうぜ」

「えええええ!なにそれ理不尽!!!」

「コーヒー奢ったんだ。構わないだろう?」

「くっ・・・!」

シーザーがクッキーの紙袋をさっさと自分の鞄に仕舞う。くそう、缶コーヒー貰って飲んじゃったから何とも言えない!!

「もー・・・」

仕方がないので掴んだ1枚だけでお腹を満たそうと一口囓る。うん、味は上出来。

一度コーヒーを飲んで、残り一口分のクッキーも食べようと口元に運び食べる直前、何故かシーザーにその手を掴まれた。

「何!」

「俺のクッキーだ。勝手に食うんじゃあない」

「これすらもなの?!」

どんだけなのよ!と抗議の声を上げていると、クッキーを持つ手がシーザーの手によって、シーザーの口元に運ばれる。そして、クッキーはシーザーの口の中に消え。


私の指先は、シーザーの唇に押し付けられた。


驚きで声が出ず、目を見開いてその様子を見ていると、伏し目だったシーザーの目が私を射抜く。大きく心臓が跳ねた気がした。

「ん・・・味は悪くはないな」

その言葉と同時に手を解放される。

「あっ、あったり前でしょ!」

動揺を悟られまいと慌ててシャープペンを握る。

びっくりした。何だったんだ今の。
残りのクッキーを横取りしたのはともかく、指に口づける意味はあったのか。その意図は?
未だに唇の感触が残る指先が震えそうになる。

深く考えそうになったところで頭を振った。やめよう。シーザーは友達だ。余計な詮索をして仲に傷がついてしまうのは避けたい。きっと深い意味はない。

そう完結して、私は一度深呼吸をした。


「ーーーよし!残りもちゃっちゃと片付けるぞ!」


気合い表明のため、腕まくりして課題を再開した私は、シーザーが溜め息をついた事に関して言及はしなかった。



その後。
2人して課題が終わったのは日が暮れた時間であり、達成感と同時に今度は空腹が襲う。派手にお腹が鳴ったのをシーザーに聞かれてしまい、ひとしきり笑われたあと。

なんか奢ってやる。行くぞ。

2度も奢られるか!自分の分は自分で払いますー!!

という流れで最寄りのカフェに入ったのだが、周りがカップルだらけで変な気分になった。本当に勘弁してほしい!



ハッピー?
バレンタインデイ!




後日。
シーザーが誰からもバレンタインのプレゼントを受け取らなかったという事実は、今度こそ私を大いに困惑させた。








*****
おまけ。

週明けのジョセフとマルク。


ジョセフ「よーマルク!バレンタインは彼女とお楽しみでしたァ?」

マルク「お、お楽しみって・・・!えっと、手作りのケーキを貰ったんだ!家庭的でもあるなんて本当に素敵な女性だよ!」

ジョセフ「あーあー惚気はいいわ。それよりスケコマシーザーはさぞ沢山チョコ貰ったんだろーなァ。あ、ヤバい殴りてぇ」

マルク「いや、今年は受け取らなかったって」

ジョセフ「ホワット?!」

マルク「何でも本命の女性に誠意を見せたいとかで」

ジョセフ「うそーん!アイツ本命いたのかよ・・・じゃあその本命とあっま〜いバレンタインを過ごした訳ねン」

マルク「それが、貰えなかったから奪ったって言ってたんだけど・・・」

ジョセフ「ハァ?!どういう状況だよソレ!?」


ーーー
20150214




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