【梅雨企画】



雨の中帰ろうと自分の傘を手に取ったところで、上機嫌なジョセフに引き止められた。


「シヨリチャン♪」

「? なあにジョセフ」

「俺の傘に入ってけって!」


楽しげに私の手を引いて玄関先で黒い傘を広げると、その傘の内側に青空模様が描かれていた。


「わぁ・・・綺麗!」

「だっろ〜?」


ジョナサンてば良い趣味してるよなァ、と続けたので、どうやら彼の従兄弟のお兄さんからもらったもののようだ。私はお言葉に甘えてその傘にお邪魔する事にした。


「いいねこの傘。雨の日が楽しくなるかも」

「そーそーこれ、雨の日はぜってー外に出ねぇ!って言ったら雨の日が少しでも楽しくなるように〜つってジョナサンがくれたのよねン」

「相変わらずすごく良いお兄さんだね」

「紳士だからな〜」


大きめのその傘に入れてもらい、並んで一緒に帰る。傘の外はどんより灰色の世界が広がって雨の音が絶えない。でもこの傘の中だけは、気持ちのいい青空が広がっている。

不思議。でも本当に綺麗。

傘に見とれて上ばかり見ていたのがいけなかった。


「?! おいッ!!」


足下の段差に気付かず、私は足を大きく踏み外しガクンと崩れ落ちる。すぐに気がついたジョセフが傘を投げ捨て、間一髪のところで私を抱きとめた。


「あっぶねー・・・!」

「び、びっくりした・・・」

「そりゃ俺の台詞ですゥー!」


私が再び立てるよう体勢まで整えてくれたジョセフに、お礼を言う為に顔を上げると。ジョセフの顔が想像以上に近くて驚いた。ジョセフも私がいきなり顔を上げるのは予想外だったようで、その目を丸くしている。傘に保護されなくなった私達には、降り続く雨が容赦なく叩き付けられるのに、何故だろう。私とジョセフは、離れる事も急いで傘を取る事もせず、至近距離でお互いの瞳を見つめ、どちらともなく唇を重ねた。

キスした後我に返ったように離れて、傘を取り戻して再び歩き出す。こんな立派な傘があるのに雨の中濡れてまで何やってんだと恥ずかしさに襲われた。それはジョセフも同じようで、私から顔を背け意味もなく車道を見ている。しばらくお互い無言で歩き続けた。気まずさに先に音を上げたのは私だ。


「・・・ジョセフ。傘、ここまででいいよ。ここからは自分の傘使うから」

「いや、このまま送るぜ」

「え・・・でも、悪いよ」

「いーっていーって」


ジョセフの素敵な傘に入れ続けてもらうのはとても魅力的だけど、私を気遣って片側の肩が濡れている事に気付かないフリをする訳にはいかない。彼の従兄弟のお兄さんも紳士らしいけど、こういうところではジョセフだって立派な紳士だ。濡れて変色しているジョセフの肩に申し訳ないと視線を向ける。


「・・・だったら、お駄賃貰うわ」

「え?」


隣から一歩踏み出して私の前に出たジョセフと向かい合う。ジョセフは屈んだと思ったら一気に距離を詰め、また唇が重なった。いや、勢いを付け過ぎたためぶつかった、の方が正しいと思う。

唇が離れ、屈んだまま同じ視線の高さでジョセフが笑う。


「今のはお前を家まで送る分のお駄賃な」

「・・・じゃあさっきのは?」

「・・・あ〜、傘と俺の使用料!」

「何それ!」


おかしくて、クスクス笑い合う。あぁ、雨の日も悪くないなぁ。



の中で
キスをする




即席の青空と君の太陽みたいな笑顔で、梅雨でも私の心は快晴です。





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20150704



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