小ネタより。まあむ様のリクエスト。
「突然一緒に乗っていたエレベーターが止まって動かなくなった時のジョセフ」





なかなかの高さを誇る老舗ホテルの最上階で、私の好きな小説家のサイン会があり。良いなぁ行きたいなぁと言っていたらそれを聞いたジョセフに「おーじゃあ行こうぜ」と言ってもらえ。楽しみで迎えた今日。なぜかあらゆる所で顔パスだったジョセフに驚かされつつも無事にサインをもらえ、ルンルン気分の私とジョセフは下りのエレベーターに乗ったのだが。


ガゴン!!


大きな音がしたかと思うと照明が消え、流れていたBGMも空調の音もピタリと止まった。


「え?!なになに!!?」

「あーーー止まっちまったな。大分ガタきてたみてーだしなァこのエレベーター」

「うそ・・・!すぐ動くよね?!」

「どーだろな」


扉を力いっぱい開けようとしても開かない。そもそもここがいずれかのフロアにちょうど止まっているという確証もない。内側からじゃどうにもできないみたいだ。

このエレベーターは外の景色を見られるガラス張りのものだから、照明が消えても昼の外は明るく、見えなくなるということはない。それでもかなり高い場所で止まってしまったので怖いものは怖い。

やけに冷静なジョセフが非常用呼び出しボタンを押すが・・・


「あン?反応ねーな。こりゃヒデェわ」

「えええええ?!」


非常用呼び出しボタンが非常時に仕事しないという二重の意味で最悪な事態になってしまった。


「すぐ動くよねぇ・・・?!」

「いや無理だろ。電気通ってるかどうかも怪しいぜ?コレ」

「そんなあああ・・・!」

「まー慌てんなって。ワイヤー切れて垂直落下ー!なんてのは映画の中だけの話らしいしィ?」

「こここ怖いこと言わないでよ!」

「そーだな・・・連絡しとくに越したことはねーか。え〜と緊急時連絡先はァ・・・」

「ジョセフなんでそんなに冷静なの?!」

「あー俺過去に何度か経験してっからな〜。ジェットコースターが逆さになった所で止まった時はさすがにもう駄目かと思ったぜ」

「なにそれ怖い!!」

「俺乗り物運悪いらしくてさァ・・・あ、電話は繋がりそう。ちょい待ってな」


携帯電話で連絡を取っているジョセフを待っている間、そわそわと周りを窺ってしまうが、どうしたって視界に入ってくるのは外の景色で。動いている時はすごいと思えた高さが、今は怖い。ずっと見ていると怖くなるばかりなので、私は慌てて扉の方を向いた。ちょうど連絡を取り終えたジョセフと目が合う。


「すぐ来てくれるってさ。ホテル側も今頃は大慌てだろ。俺の過去の経験から言わせてもらうとォ、早くて30分ってトコだな。気長に待つか」

「そんなに?!」

「おう」

「・・・ジョセフ、怖くないの?」

「ねーなァ。なになにシヨリチャンは怖い感じですかァ〜?」

「こ、怖いよ・・・!」

「・・・わーった。じゃあ今すぐ出してやる」

「え!できるの!?」

「あぁ。1つだけ方法はあるぜ!」

「本当?!どんな方法!?」

「あぁ、ちょっと下がってな」

「・・・?」

ブッ壊す

やめて!!尚更危ない!!」


私は腕まくりを始めるジョセフにしがみついて止めた。ジョセフならやりかねない・・・!


「え〜なんでだよ一番手っ取り早いだろ?」

「一番危険だよ!!大丈夫!!私ちゃんと待てるから!!壊さないで!!」

「ん〜、しゃーねーなァ」


とりあえずジョセフは止めることができたので一安心だ。後は助けが来るまでひたすら待つだけかぁ・・・うぅ、怖いなぁ・・・。そういえば空調も止まってしまったのでエレベーター内が急に寒くなってきた。暖かくなってきたとはいえ、まだ春先で不安定な気温変動が続く。今日だって、昨日の暖かさが嘘のように、気温は低い。冷えてきた手を、私は無意識に擦り合わせた。ジョセフはそれに気付いたらしい。


「寒いか?」

「ん・・・ちょっと冷えてきたかなって」

「・・・・・・」


何やらジョセフが考え始めた。顎に手を添えて考えるそぶりを見せるジョセフは、今日の服装ーーーホテルのサイン会だからか少しフォーマルなのも相まって、すごくかっこいい。あぁ、やっぱり良い男だなぁなんて見惚れていると、結論が出たのか途端にニマ〜っとした顔をこちらに向けてきた。・・・前言撤回。


「俺今すげぇ良いこと思いついた」

「え、なんか嫌な予感しかしないんだけど・・・」

「健全な男女が密室で二人きり。しかも彼女が寒くて震えてるときた!暖まるのに打って付けの方法・・・さァ、なんだと思う?」

「・・・え」


言いながら、ジョセフがこちらに距離を詰めてくる。そのニヤニヤした表情からは良いことが連想できず、思わず後ずさる。


「誰も見てない、しばらく助けも来ない。そんな密室でできることと言えば・・・?」

「え・・・?!」


まさか?!と思ったところで私は隅に追いやられてしまった!ジョセフが壁に手をついたことで逃げ場も塞がれ、視界は妖しく笑うジョセフで埋められた。


「なァ・・・暖まろうぜ?」

「な・・・ど、どうやって・・・!」


ひとつ思い至ることがあるけど、最悪なパターンのそれに、私は最後までとぼけることを決めた。


「そりゃあもちろんーーー」


ジョセフの手が私の脇腹に回る。
え?!え?!やだ、こんなところでーーー!!



「ーーーこ〜ちょこちょこちょこちょこちょこちょーーー!!!

「?! や、あっ、あはははははははははははははははっ!!!



思いっきりくすぐられた!!


「ちょっ、やめっ!あははははははははははははっ!!!」

「やーなこったァ!!」


そして、しばらくジョセフのくすぐり攻撃は続いたのだった・・・。





「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」

「どーよ?爆笑すると暖かくなるだろ?」

「そ、だね・・・!」

「それともな〜にィ?イヤラシ〜ことでもされると思っちゃった〜ン?キャッ!シヨリチャンたらエッチ〜♪」

「ち、ちがうもん・・・!」


いや、違わないけど!!誤解を招く事を言うジョセフが悪い・・・!まだお腹が苦しくて言えないけど・・・!


「ま〜後はァ」

「?!」


突然ジョセフが私を抱えて座り込んだ。私はジョセフに背を預け足の間に納まる形になる。


「せっかく暖まったんだ。くっついてりゃ寒くなることはねーだろ?」


そう言って私の頭に顎を乗せて少しだけのしかかってきた。重くならないように加減しているのか、私に負担はかからない。・・・あ。




ーーーあぁ、今わかった。ジョセフは私を不安にさせないようにしてくれていたんだ。



非常時とは別の意味でハラハラさせたり、ドキドキさせたり、笑わせたり。こうやって抱きかかえたり。確かに、不安になる暇なんてなかった。ジョセフらしい優しさに、笑い過ぎたのとは別に、じんわりと涙が出てきた。


「ジョセフ、」

「んー?」

「・・・ありがとう」


どうやらこの感謝が何を指すのか、ジョセフはわかったらしい。


「どーいたしまして」


ぎゅっと抱き直され、密着して感じるジョセフの体温に安心し、私は目を閉じた。緊急事態でもこんなに安心できるのは、ジョセフがいてくれるからなんだね。


「ジョセフ、大好き」

「・・・。こーゆう時にそんなこと言われるとムラッとくんだけど」

「・・・ばか」




緊急事態




数十分後。ようやく助けに入った作業員が扉を開けて見たものは。彼女を抱きかかえる彼氏と、彼氏に抱きかかえられた彼女が仲良く眠りこけているという、非常事態とはまるで無縁のほのぼのとした光景だったという。




ーーー
20150414




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