バレンタイン同様、今日は土曜日。私はジョセフに誘われ、ジョセフの広いお部屋にお邪魔している。私が来るからか、部屋を片付けた形跡が残ってるのがなんともジョセフらしい。机に漫画本が乱雑に積んであるし。

・・・ジョセフって庶民的に見えて実はお金持ちのお坊ちゃんなんだもんなぁ・・・。

過去に何度か来たけど、いつ来てもキョロキョロ周りを見回してしまう。私が今直接座っているカーペットなんて肌触り最高だし、あの電気スタンド、絶対高い・・・!

「おっまたせーーーン♪」

ノックもなしに突然部屋のドアが開き、ジョセフがお盆に飲み物を乗せて入ってきた。すっかり電気スタンドに気を取られていたので思い切り肩が跳ねた。


ジョセフの淹れてくれた、ジョセフ曰く「腐っても本場仕込みだから不味いはずない」美味しい紅茶をご馳走様になっていると、テーブルを挟んで落ち着いたジョセフが切り出した。

「今日はホワイトデーですねー?」

「うん、そうですねー?」

「愛しのシヨリチャンに、ちゃ〜んと用意してるぜ?ホワイトデーのお返し」

「そ、そうなの?ありがとう」

「おっとォ!礼を言うのはまだ早いぜ!ホラ、ただ渡すのもツマンナイじゃん?そこでだ!」

ジョセフは既に用意していたのかテーブルの下から何やら袋を取り出し、テーブルの真ん中辺りでその袋をひっくり返した。口を縛っていなかった袋の中から、重力に従いバラバラと中身が落ちる。その中身は。

「・・・ツロルチョコ?」

「イエース!」

たくさん出てきたツロルチョコには、よく見るとパッケージにメッセージを書き込めるスペースがあり、そのスペースにはジョセフが書いたと思われるローマ字がひとつにつき1文字ある。

「このローマ字、ジョセフが書いたの?」

「そ♪ それを組み立てると、ひとつの文章になんのよ」

「・・・もしかして?」

「そのもしかしてだぜ!それを組み立てて俺からの愛のメッセージを読み取ってちょーだい!」

「えええええ!?」

ローマ字、結構いっぱいあるんですけど?!適当に手に取ったものから順に、正しい向きで一列に並べる。

t y o e o e s e h ! I w t a y u l m e v r

21個で21字。これがひとつの文章になるらしい。

「ヒントは?」

「俺からの愛のメッセージ。それ以外はノーヒントでーす!」

「難しそう・・・!」

「ダイジョーブ、愛があれば解ける解ける」

「うぅ・・・!」

簡単に言ってくれるけどほぼノーヒントだし、文字数多いし!適当な1つを手に取ってまじまじ見てみるが、字が書いてある事以外至って普通のツロルチョコだ。特に仕掛けはない。

「完成したら教えてねン。見事当てたら豪華賞品プレゼント!」

「クイズ番組じゃないんだから・・・」


こうして私の解読の時間が始まったのである。



愛のメッセージ、という事は愛・・・つまり【love】が入っているんだろうか。私は【love】を成す文字、l o v eを探した。よし、4文字ちゃんとある!私は4つの文字を順番通りに並べる。

「おっ、鋭いじゃなーい!1番大事なトコロはちゃんとわかってるみたいねン」

向かいで頬杖をついて私の様子を見ていたジョセフからOK発言が出たのでこれは合っているみたいだ。

さて後は・・・文章なら最後はピリオドで終わるはずだけど、ピリオドはない。代わりにビックリマーク【!】があるから、きっとこれが1番最後になるはず。

じゃあ文の最初は大文字になるはずだ。念のためジョセフに一文字目は大文字か訊いてみると肯定が返ってきた。私は唯一有るであろうローマ字の大文字を探す。・・・あれ?なくない?

あれも違うこれも違うとうんうん唸っていると、カシャ!という機械的なシャッター音が聞こえた。バッと顔を上げると、向かいのジョセフが相変わらず頬杖をつきながら、スマートフォンを此方に向けてニヤニヤしていた。

「ちょっと!何撮ってるの!!」

「いーじゃん。俺今暇なんだもんよ」

「盗撮ダメ、ゼッタイ!今すぐ消して!」

「じゃあシヨリが無事解読出来たら消してやるよ」

「もー!わかった、絶対だよ!」

「ハイハーイ」

そしてまた解読に戻る。


しばらく考えた。
シンプルに愛のメッセージなら「I love you」が無難なのではないか?私は既にできた【love】以外のそれらの単語を作るスペルを探す。・・・あった!!

大文字がないないと思っていたら、私が小文字の【L】だと思っていたものはどうやら大文字の【I (アイ)】だったらしい。書き分けてくれないのがなんとも憎たらしい。

「・・・ジョセフの意地悪」

「えー何のことォ?」

しらばっくれてるけどそのニヤニヤ顔が全てを物語っていることくらい、わかってるんだからね!!



その後私は行き詰まった。
【I love you】と文末の ! まではわかった。そのあとに続く言葉がわからない。残るローマ字は t e s e h w t a y m e r 。このローマ字を組み合わせて単語作ると言っても、これだけの数なら何通りも単語が作れてしまいそうだ。色々組み合わせてみるけど、何文字の単語があといくつあるかもわからない。いや、そもそも【I love】までは良いとして【you】も合っているのか、順番も【love】の次でいいのかわからなくなってきた。

「うー・・・!」

「ちょっとォ、俺そんな難しい文章にはしてねーぜ?ここで行き詰まられたら俺泣いちゃう!すげー泣いちゃう、エシディシみたいに」

「エ、エシディシって誰?」

「知り合い。この前久々に会ったら会うなり号泣されてよ、マジでビビったぜ。精神不安定なのも大概にしてほしーわ」

「うーん・・・よくわからないけど、泣きたい時は思いっきり泣いてスッキリした方が良いと思うよ。そのエシディシ?っていう人も色々辛い事があったんだろうし・・・」

「・・・。俺、お前のそういう優しいトコ。大好き」

「! あ、ありがと・・・」

たまに不意打ちで来る言葉の破壊力は絶大だ。ドキドキと高鳴る胸を抑えつつ、解読を続けなければ。



・・・どうしよう、わからない。
大分時間も経った。ジョセフが淹れてくれた紅茶も合間にちびちび飲んでいたけど、カップに残った2杯目ももうすっかり冷え切ってしまった。

もはや唸り声すら上げられない。眉間に皺が寄っている自覚はある。

降参?そんなのジョセフに失礼だ。
愛があるなら解けるって言ってたのに。私には愛がないから解けないみたいじゃないか。そんなの絶対嫌!!

遂に言葉も発さなくなった私に、ずっと見ていたであろうジョセフは席を立った。そして私の背後に回り、私を後ろから抱き込んできた。長い両腕が私のお腹に巻き付く。驚きも相まって、先程とは比べ物にならないくらい胸が高鳴った。

「ジョセフ!集中できないから・・・!」

「そんな険しい顔しちゃイヤよン、俺のシヨリチャン。せっかくのカワイイ顔が台無しだぜ、俺のシヨリチャン」

お腹に回った腕に力が籠る。そのまま後ろから私の首筋に顔を埋めてきた。ちょ、ちょっと!ホントに解読どころじゃなくなる・・・!

「あー・・・いい匂いだな、俺のシヨリチャンは」

すんすんと匂いを嗅いでくるジョセフに気を取られながらも、ひとつ疑問に思った事がある。何で不必要なまでに「俺のシヨリチャン」を付けるんだ?そしてまた楽しげに「お・れ・の シヨリチャン♪」と言われた。
なんか俺のって強調してないか・・・?


・・・もしかして!


私は慌てて俺の、つまり【私の】という意味になる単語【my】のスペルを探す。あ、あった!!

やっぱり、ジョセフはヒントをくれてたんだ!あんまり悩んでたから見兼ねたのかな・・・

今までに出来た単語を組み合わせると【I love you my     !】。ここまでくると流石にピンときた。最後の単語はきっと恋人、という意味の単語が来る。よし!ゴールが見えて来た!!

残るのは t e s e h w t a e r 。・・・うーん・・・。

その時。私の首筋に顔を埋めていたジョセフが私の首をペロリ、と舐める感触がした。

「ひぁっ?!ジョセフッ今舐め・・・!」

「んー・・・昔の人は上手いこと考えたと思うぜ。恋人に甘いって言葉を使うなんてな。実際ホントに甘い訳じゃねぇのに、甘いって感じる何かがあると思うのはいつの時代も共通みたいねン。

・・・うん、甘ぇ」

言いながら、今度は耳朶に軽く歯を立てて舌を這わせてきた。そのざらついた感触とすぐそばで聞こえる息遣いに全身がゾクゾクと震える。


でも、これでもうわかった。残った文字で作れる「甘い」が入った恋人という意味の単語はこれしかない!


ジョセフの行為がエスカレートする前に急いでローマ字を並べ替え、文章を完成させた。

「ジョセフ!出来たよ!!」

「おー、答えは?」

「えっと・・・」


う。改めて言うとなると私からジョセフに伝えるみたいでちょっと恥ずかしい。私は小声でこっそり答えを口にした。

ら。

「えーなァにーーー?よく聞こえなーーーい」

「え?!」

こんな至近距離で聞こえない筈がないと思いつつ、今度はさっきよりもはっきりと聞こえるように言ったつもりだった。のに。

「聞こえなーーーい!もっとデカい声で言ってくんなきゃわかんなーーーい!」

とのたまった。


コ、コイツ・・・!
わかってしまった。何が「俺からの愛のメッセージ♪」だ!!

この言葉を!最初から!私の口から言わせたかっただけじゃないか!わざわざこんな手の込んだ事して!!その証拠に、ジョセフが笑いを堪える振動がダイレクトに伝わる。本当に抜け目ないんだから・・・!!



あーーーーーーーもうっ!!!!!





「 I love you my sweetheart! 」
  (愛してるよ愛しい人!)



ハッピー
ホワイトデイ!




「っせ〜〜〜かーーーい!!!」

と言って差し出されたのは、大きなモフモフのテディベアに、ホワイトデーのお菓子がパンパンに入った袋を抱えさせたデザインの可愛いお返しだった。

かっかわいい・・・!
ジョセフのセンスが良過ぎて怖い・・・!!



が、後日。
自宅でテディベアを抱き締めたり一緒に寝たりして大切にしている、と伝えたらジョセフが拗ねた。くれたの、ジョセフだよなぁ・・・。









*****
オマケ。

あの写真の行方。
週明け、大学にて。


シーザー「JOJO?ニヤニヤしながら何を見てるんだ?」

ジョセフ「ンッフッフ〜!俺のきゃわゆ〜いハニーが俺に愛のメッセージを組み立ててるトコロの写真よン♪」

シーザー「へぇ。可愛いことをするんだな」

ジョセフ「でっしょ〜?」


メッセージを組み立て終わった後、約束通りあの時撮った写真をシヨリの目の前で削除した。


が、シヨリは気付いていなかった。


シヨリが解読に夢中になっている間、パソコンに画像のデータを送信していたため、いくらでも復元が可能だったということに・・・。



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20150324


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