私が勢いでやらかしてしまったあの事件のその後。私は自分の気持ちを花京院くんに知られてしまったものの、花京院くんとの今まで通りの日常を壊したくなくて、必死に花京院くんに頼み込んだ。


花京院君とどうこうなりたい訳じゃなくて、花京院君と過ごす時間が楽しくて好き。本当にそれだけで。お願いだから、今までと変わらずに接してほしい。


そう伝えたら、花京院くんはすごく戸惑ってたけど、最終的には「わかった」と了承してくれた。そして、本当に何事もなかったかのように今まで通り接してくれる。それがとても嬉しくて。また花京院くんを好きになった。この好きは友達に対する好きなんだって、自分に言い聞かせる日が続いた。



そして今日。


「相羽さん。今日これから、つきあってくれないか?」

放課後。帰るために靴を履き替えていると、花京院くんに呼び止められた。誘い!乗らずにはいられないッ!

「もちろんいいよ!もしかして今日こそモッフンミュージック勝負に決着つけちゃう?言っておくけど私、いくら相手が花京院くんとは言え、音ゲーだけは負ける気が、」

「いや、違うんだ。今日はゲームセンターではないよ」

「え?違うの?」

「あぁ。ついてきてほしい」

私が外履に履き替えたのを確認すると花京院くんはニコリと笑って。

「こっちだ」

と言って私の手首を緩く掴んで歩き出した。

うわわ!手を繋いでる訳じゃないのに、すごくドキドキする!花京院くん手、大きいなぁ。


・・・側から見れば、カップルに見えるんじゃないかな。花京院くんは、何とも思わないのかな。


ドキドキして、たまに痛い。そんな私に気付くことなく、花京院くんは私の手を引いて歩みを進めた。



いつぞやのデパートに来た時はまさかと思ったけど、そのまさかで。
花京院くんが催事場に来た時はさすがに焦ってしまった。

「まだ、君からもらったチョコのお返しをしてなかったからね」

「えっ!いやホントに気を遣わないで!!」

「気を遣ってお返しするんじゃない。僕がしたいからするだけだ」

手が離されたのは、1ヶ月前とは少し違う、ホワイトデーの特設催事場。男性が女性にお返しする日と言われているのに、何故か女性客が目立つ。まるでバレンタインの時のようだ。

「女性の購入意欲はすごいな。ホワイトデーは男性が女性にお返しをする日とばかり思っていたのに」

「あ、ホラ!バレンタインに友チョコをもらった女子がお返しを買いに来てるのかも!それかすごいチョコ好きが来るとかね!」

「相羽さんはチョコ、好きかい?」

「もちろん!」

「じゃあ問題ない。好きなものを選んでくれないか」

遠慮しないで。と続けられれば私も断る訳にもいかず、うん、ありがとうと頷いた。


それからまた花京院くんと並んで催事場を回った。バレンタインの時にもあったブランドが多くて、バレンタインとシリーズになっている物もある。ひとつひとつ花京院くんと話しながら見ていった。


あぁ、やっぱりいいなぁ。こういうの。花京院くんも、そう思っていてくれないかな。


期待してしまう自分を諌めながら移動した時。可愛い動物達の世界がカラフルに表現された、何ともメルヘンチックなチョコレートが目に飛び込む。

「「あ」」

見事に声が重なった。花京院くんまで声を発するとは思わなくて、バッと花京院くんを振り向く。すると、花京院くんはにこやかにこちらを見ていて。

「これ、好きだろう?」

「う、うん・・・」

「だと思った」

催事場のチラシを見た時から、これが好きそうだと思っていたよ。と言われてしまい、私ってそんなにわかりやすいかなぁと頭を抱えていると。


「僕の相羽さん観察眼も捨てたものじゃないだろう?」


笑顔でそう言われて。


花京院くんも、よく私を見ていてくれたの?


そう思ってしまって、目頭が熱くなる。震えそうになる声でうん、と返すのが精いっぱいだった。


花京院くんを好きになって良かった。私の気持ちを知っても私の願いを汲んで今まで通りにしてくれて、惜しみなく笑顔を向けてくれる。
こんな素敵な男性に恋をした自分が誇りに思えた。これから花京院くんとどうなろうと、この事実さえあればどんな現実さえ全部受け入れられる。そう思った。



チョコレートを購入した後、もう少しだけつきあってほしいと言われ、ふたつ返事で頷いた。また手を引かれて着いたのは、寒くて人気がない小さい公園で。そこで私は花京院くんから買ったチョコレートを手渡された。

「はい、どうぞ」

「あ・・・ありがとう!大事に食べるよ!いや、食べるのもったいないから飾っておこうかな・・・!」

「賞味期限に気をつけてね」

「安心して!賞味期限はあくまで美味しく召し上がれる期限だよ!!切れたって食べるよ!」

「美味しく召し上がれる期限なら、尚更期限内に食べてほしいんだが?」

「う・・・ソウデスネ」

「そもそも何で賞味期限が切れた後に食べること前提なんだい?」

クスクスと花京院くんが笑う。つられて私も笑った。
笑い合ってしばらくすると、花京院くんは笑いを潜めポツリと話し出した。


「・・・君は僕との時間が楽しくて好きと言ってくれたね」


それが私の気持ちを知られた後、花京院くんにお願いした内容であると察した途端、意図せず肩が跳ねた。
花京院くんは尚も続ける。


「僕もとても好きだ。君と一緒にいる時間は、とても楽しくて同時に安心できる。これからも君とこんな風に過ごしていきたいと思っているよ」


あぁ、つまり、それは・・・

その言葉はつまり、これからも私と友達でいたいという、私の告白に対する返事だと思った。うん、と返した相槌は、今度こそ震えてしまった。

構わない。私はどんな現実だって受け入れると決めた。拒絶や謝罪の言葉を選ばないのはきっと花京院くんの優しさだ。その優しさに涙が出そうで。それを悟られたくなくて、私は俯いた。





「ーーー加えて、今日みたいに、その・・・君と手を繋いだり、出掛ける場所を増やしたり、もっと一緒にいる時間を作ったり、したい」



「・・・へ?」



予想だにしない言葉が続き、私はマヌケな声とともに顔を上げた。目に入ってきたのは、頬が赤くなっている花京院くんで。

かっかわいい・・・!!じゃなくて!!!


「世間はそれを、恋人と言うそうなんだが・・・どうだろうか」


私に向けられたその提案に、今度は私の顔がボッと発熱した。そして、私の想いが一方通行ではないという事実に、一度引っ込んだ涙が復活してきた。花京院くんの顔を見ていたいのに、視界がぼやけてよく見えない。


「とっても、すてきだとおもう・・・」


馬鹿みたいなことしか言えなくて。それでも、花京院くんは震える声と、意思を拾ってくれたみたいだ。


「それじゃあ、改めて・・・」


コホン、と咳払いをし、花京院くんは私に向き直った。



「好きです、相羽さん。

僕と、付き合ってくれませんか?」



私は、涙腺が決壊してボロボロと涙を零しながら、笑顔を作り。


「喜んで!!」


その言葉と共に、花京院くんに勢いよく抱きついたのでした!



ハッピー
フライング
ホワイトデイ!




この日から「シヨリ」「典くん」になったよ!!








*****
おまけ。

翌日、某高校にて。


承太郎「花京院・・・お前よくこんなアホと付き合う気になったな」

シヨリ「アホとは何かなアホとは!!」

花京院「承太郎。君は彼女の魅力に気付いていないだけだ」

シヨリ「典くん・・・!(キュン!)」

花京院「このアホ可愛さこそが彼女の最大の魅力だとね!!(ドヤァアアア!!!)」

シヨリ「アホは否定してよォオオオオオオオ!!!!!」



承太郎「やれやれだぜ・・・」





ーーー
20150310



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