絵理ちゃんと裕子ちゃんの目論見で体育祭で御堂筋くんと二人三脚をすることになってしまった。誰だ、立候補制度を作ったのは。文句を言おうが、すで紙に書かれて提出してしまったし、体育祭まであと一週間あまり。時間がない、が御堂筋くんを練習に誘えるわけもなく、見かねた二人が放課後、半ば強制的に御堂筋くんをわたしの前に連れてきて練習しろと言ってくれたときは、感謝したけれど。
 運動場には男女のペアがちらほら見える。みんな二人三脚の練習らしい。なるべく人気のない場所に移動して、御堂筋くんの様子を窺うと面倒くさそうな表情をしていた。気乗りでないようだ。そりゃそうだ、御堂筋くんにとっては部活の方がいいに決まっている。

「ご、ごめんね御堂筋くん。嫌だったでしょ?」
「いやや誰も言うとらんやろ」
「そっ、そうだけどさ……」

 迷惑かなと思って。続けようとした言葉は、またいつもの口癖を連発されそうだと大人しく飲み込んだ。だって、まず背の高さが違うだし。肩に手が届かないし。そう思いながら隣にたって限界まで腕を伸ばせば、案外届いた。御堂筋くんが猫背でよかった。

「やったあ、届いた……!」
「そやね」

 顔がすぐ横にある。恥ずかしくて、勢いよく背けてしまった。

「……ご、ごめん」
「くどい」

 ごめん、と口に出そうになって閉じる。御堂筋くんはどこからともなくハチマキを取り出し、屈んだ。足に布が巻きつく。「やるからには一番や」御堂筋くんがわたしを見る。

「勝ちいくで、苗字」

 にやりと笑みを浮かべる御堂筋くんだったけれども、いざ走ってみると御堂筋くんがわたしの足につまづいて、さらにわたしも巻き添えになって一緒に地面とお見合い。もっと練習が必要だとわかったものの、身長差があまりにも違うでこぼこコンビに勝機はあるのだろうか。ずきずきと身体の様々な部位が痛み出すなか、ひとりそう胸中で思った。

▼△


「どうしよう心臓ばくばくしてる」
「ほうか」
「で、でも練習いっぱいしたもんね、頑張ったもんね」
「ん」

 などといった会話が現在、目の前で繰り広げられている。苗字はとても嬉しそうに御堂筋の足首に鉢巻を縛っている。全くこれだからリア充は。絵理に同調を促そうとしたところ、当の本人はばっちりカメラで二人の様子を撮っている最中だったので、大人しく口を閉じた。普段冷静な彼女がこうも張り切ることはあまりない。邪魔はしないでおこう。
 しばらくして召集がかかった。二人の仲睦まじい後ろ姿を、すこし離れた距離で見送るだけで良かったのだが、どうしても絵理がついていくと言い張るので招集場所までついていくことに。
 二人は身長のおかげで遠くでも十分に見つけることができた。苗字が一生懸命にこれでもかというほど御堂筋に喋りかけている。普段はもじもじしている苗字でも緊張には勝てないらしい。
 やがて、大きな二本の柱で作られた門に出場者が並び出す。苗字と御堂筋の姿はたくさんの人の姿で見えなくなったが、どうやら一番前にいるらしい。

「なあ、御堂筋運動音痴なんやけど、大丈夫やろか」
「心配あらへん。名前は運動神経がいいから」

 苗字の普段の様子を思い出して、納得した。確かに、ああ見えて人並みに足が早い苗字なら御堂筋も引っ張っていってくれるかもしれない。
 体育祭には似合わない、甘いイントロが流れ出した。

「なんやこの曲」
「そういうイベントや思てんのやろ」
「まあ実際そうやけどな――って、あっ、おった! おったで!」
「ほんとや」

 うちたちの場所から遠く離れたところで、列は止まる。緊張している苗字に絵理と手を振れば、気付いた苗字が小さく微笑んで振り返してくれた。
 レーンに移動する二人にこちらまでも緊張してしまう。ちなみにゴールは、うちたちのちょうど目の前に位置する。見届けるにはもってこいの場所だ。

「あかん、心臓が苦しい」
「うちもや……やばい」

 未だに周りは声援で埋め尽くされている。まだかまだかと思っていたとき、ピストルを持った生徒が腕を大きく掲げた。
 ――パン。
 弾かれたように生徒たちが一斉に走り出す。わっと盛り上がった声援の音量に負けじと、二人で声を張るが、聞こえているかは分からない。
 苗字と御堂筋のペアは順調だ。途中でよろめいたときもあったが、御堂筋が苗字の肩をぐっと寄せた姿を見逃すはずがなかった。

「なあなあいまの見た!?」
「見た!! あと、ムービーに撮っとるで」
「よっしゃあ! 苗字ーー!! 走れーー!!」

 テンションが上がって、喉が痛くなるほど叫ぶ。二人の姿が近づいてきた。「いっちに、いっちに」との掛け合いがここまで聞こえる。練習を幾度も重ねたのだろう。他のペアとの差は歴然だった。
 二人がテープを切ると、うちたちのクラスの生徒が一斉に雄叫びを上げた。黄色い悲鳴も混じっている。

「った……! やったあっ!!! 一番だよ御堂筋くんっ!!」
「そんなん言わんでもわかるわ」
「へへへ、一番だよ、一番!」

 御堂筋と苗字が二人三脚。絵理とうちと何名かのクラスメイトと結託して、ほんまによかった。あまりの喜びに勢い余って御堂筋に飛びついた苗字の大胆なこと。彼女の我に返ったときの反応が楽しみだが、御堂筋が頬を朱に染めて硬直する様はなんとも滑稽だった。


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