ふんわりとした髪の毛に触れてみたいと思ったのは、苗字を目にしてからだった。晴れやかに頬を緩ませて笑うその表情はまるで太陽のようで、他の女共のように媚びたりしない姿勢がなによりも好ましかった。

「おはよう、空条くん」

 綺麗なソプラノが耳に滑り込む。素っ気なく返事をしようが苗字は笑顔を崩すことはなかった。担任から嫌なことを頼まれようが、男女両方からいじめを受けていようが、苗字は常に愛嬌がこぼれるような笑みを浮かべていた。尊い。俺はそう思った。彼女のために何かをしてあげたいような、そんな気持ちに駆られた。
 まずは邪魔な奴らを黙らせるか。俺は主犯者を呼び出した。
 その次の日、苗字は不思議そうに首を傾げていたが、やはり笑みを保っていた。ああ、おまえは笑っていたほうがいい。だが、どこか穴の空いた胸は満たされることはなかった。


 しばらくして、苗字が隣のクラスの男から告白され、付き合うことになったらしい。
 苗字はやさしい奴だ。きっと断りきれなくて嫌々付き合わされているのだろう。やれやれだ。仕方ねえ、俺がなんとかしてやるか。
 次の日、苗字の様子がおかしかった。唇がすこし歪んでいたが体調でも悪いのだろうか。

「大丈夫か」

 声を掛けてやると苗字はすぐさま明るく振舞う。体調が悪いだけのようだ。保健室にまで連れて行くぞと言えば苗字は苦笑した。ほら、やっぱりおまえは上手く断りきれねえんだ。
 腕を掴んで保健室へ連れて行くが、苗字は気分が悪そうに青ざめたままだった。

「く、空条くん、大丈夫だよ」

 ぶら下がっている札を無視して中へ入る。電気を点けてから苗字を椅子に座らせ、体温計を渡すが、首を横に振られた。

「熱は、ないよ。ありがとう」
「……あいつらから、また何か言われたのか」

 苗字の顔が強張った。

「一度締めてやったんだが、まだ懲りてねえようだな」
「空条くん」
「心配するな。おまえは俺が守ってやる。安心しろ」
「あ、の……」

 膝を折って、苗字の細い手を握る。感動しているのか、はたまたあいつらの仕打ちが怖いのか震えていた。「だから、笑ってくれ」苗字はぎこちない笑みを浮かべる。だめだ、あいつらがいなくならない限り苗字は笑ってくれねえ。あいつらをどうにかしねえとな。


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