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11.あの二人兄妹かな、微笑ましいね



クラスの中でへたれでびびりで有名な男、降旗光樹。高1の頃からバスケ部に所属し、当時然程注目もされていなかったバスケ部がインターハイ、ウィンターカップと出場すればそれは校内で瞬く間に話題となり、今ではなかなか人気の部活になっていると共にこのへたれでびびりな男も随分と女子からきゃっきゃと騒がれるようになりつつある。無論、怪物みたいなすげえのがいるお陰で本人は部内では目立ってもなけりゃ、自分が密かに注目されていることに気付いてもいないが。

そんななんとなーくモテているようなモテていないような降旗を見かけたのはサッカー部の買い出しに追いやられていた時のことだ。正直なんでオレが行かなきゃいけないのかまるで分からない。1年が行けよ1年がよお!と嘆くも、じゃんけんで負けたんだから仕方が無い。上下関係どうなってんだうちの部は……。


「げ、行き先まで一緒かよ」


1人寂しく野郎共のためにスーパーまで来てみたら、100メートルくらい先を歩いていた降旗もさっさとその中へ消えて行った。どうせなら声をかけてやろうかと小走りで追いかけて気付く、あの野郎1人じゃない。降旗の隣を買い物かご持ってひょこひょこくっついて歩いてんのは後輩、か?ああ、そういや部活のマネージャーが入ったとかなんとか言ってたような気がしなくもない。日頃のへたれっぷりを知っていると然程感じた事はないけれど、改めて女の子と並んでんの見ると意外と降旗って背丈あんだよな。そりゃバスケ部だもんな、ろくに試合でてんの見た事ないけど。


……付き合ってるような噂を聞いた事もある。そういえば。本人に確認したことはないし、大した噂にもならなかったから周りもすぐにそんな噂忘れていたけど、これはこれで良い機会かもしれない。2割の好奇心と8割の野次馬精神でそっと後を追う。つってもまあ、向こうも部活の買い出しみたいだからスーパーの中でまわるとこなんて限られてるわけだけど。

BGMといろんな人の話し声の隙間に聞こえる会話はちゃんとは聞き取れないけれど、降旗が振り返って首を傾げて何か聞けば後輩の女の子はメモを見ながら何か答えている。それを聞いては商品に手を伸ばし、彼女の持つかごへ。時たま笑い合いながらなんだか随分と和やかに買い物を続ける彼ら。

……を、観察しながら1人かごにリクエストがびっしり書かれたメモを見ては商品を突っ込んでいく悲しい現実に心が折れそうだ。


少し目を離した隙に見失ったものの、それはドリンクコーナーで再会することとなる。部員分の飲み物でも頼まれたのだろう、買い出しっていうよりパシリなのか…?ぐっ、と上の棚へ手を伸ばして頑張る彼女に気付いた降旗がペットボトルを二本、手に取りかごにいれたところでその手は彼女の方へと伸びる。
戸惑う彼女を余所にへらりと笑って彼女の手から降旗の手にわたる買い物かご。うわ、なんかクラスメイトのこういうところ見るのって、すげー罪悪感。見ちゃいけないこと見た感じ。なんだこれ。


それでもペットボトルを増やしながら仲良く会話を重ねて買い物を進める二人の姿は随分と自然で、うーむ…これは恋人というより………。


結局、その後も面白いネタ1つ出来ずにレジを通過した2人はさっさと袋詰めをして、ペットボトルがたくさん詰まったビニール袋が3つ。ちなみに今オレの目の前にあるビニール袋も3つ。野郎共遠慮のえの字もねえな!なんか楽しい事にもならなそうだし、降旗をからかうネタになりそうもないからさっさと帰るかと袋を持ち上げたところで、耳に入る彼女の戸惑ったような声。ついつい振り向いてこっそり見てしまうのはもうしょうがないことだと思う、許せ。


「いーよ、オレ持つから」


そうやって、オレたちには見せた事のないすんげー優しい顔して笑った降旗は当たり前のように2つビニール袋を片手に下げて、横であわあわする彼女にじゃあ半分こ、だかなんだか言ってもう片手に3つ目の袋の片方。もう片方を彼女に持たせてやっぱり嬉しそうに笑ってる。あの野郎。そんだけ持てるならオレに気付け、そしてオレの袋も持て。


しっかり車道側を歩いて左手に袋2つ。右手に1つの袋の持ち手かたっぽ。その向こうに彼女がいて、そんな後ろ姿を結局最後まで眺めて見送ったオレに残ったのはなんだか言葉にし難い悶々としたものである。なんでオレがこんな想いしなきゃいけないんだ。くそう。

ただ、仲良く歩くその後ろ姿は、どこか兄妹みたいで、あのびびりでへたれで臆病な男が兄貴面ひっさげてんのもなかなか面白いもので、やっぱりこのネタで遊んでやるのもありかもしれない。



「…で、考えれば考える程わかんねんだけど、結局あれ妹なわけ?彼女?どっち?」

「う、うるせえ!」


ああ、ちょっと楽しくなりそうだ。





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