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明日の相談をしよう

かちゃり、と遠くでした小さな音になんとなく意識が引き戻された。今何時だろうか、と頭の隅で考えながらも思考にかかる靄はまだ晴れそうにない。


どこか重たく聞こえる静かな足音に、今度は少し近いところでドアが開く音を聞いて起きなくてはと思うのにどうにも意識がしっかり戻ってこないままふわりふわりと行ったり来たり。
一生懸命手繰り寄せた意識。手を伸ばすのが精一杯だったけれど、それと同時に少し沈んだベッドに彼の帰りを知る。


「…起こしたか」


少し掠れた低い声にじわりと滲んでいる疲れ。大変だったのだろうなあと思いながらおかえりなさいと呟いたその声がどこまで彼に届いていたのかは分からないけれど、頭の上でふっと小さく笑ったような気がして嬉しくなる。


「おつかれ、さま」


「ああ」


伸ばした手を動かして彼を探せば、そっと大きなてのひらで包まれる。そのままきゅ、と握り込まれた手に心底安心。

まるで子供だなと笑う彼にいつもならむっとするけれど、今夜ばかりはどうにも半分夢の中なのだ。大して気にもならずただ彼の指で遊ぶ。


「…名前」


「んー?」


「明日、何処か行くか」


「お休みなの?」


「ようやくな」


好きな所に付き合ってやると言いながら私の前髪をさらさらと撫でる彼に、夢見心地な私はちょっと甘えてじゃあ一日そばにいてなんて言ってみる。


驚きを隠しもしない彼の手に思わずにんまり。きっと彼は涼やかな瞳をめいっぱい見開いているのだろうと思えばちょっとした好奇心が顔を出すから、そっと薄く目を開ける。
薄暗い中で見えた彼の顔はやっぱり驚きでいっぱいだったけれど、その顔もすぐにいつもの顔に戻ってしまう。ちょっと、残念。


「デートがしたいと言っていたのはお前だろう」


「…言ったっけ」


はあ、とわざとらしい盛大なため息と一緒に降ってきた彼の少し冷たい指先が私の頬をひとつまみ。むにりとつままれたそれにほんの少し意識が覚醒するけれど、せっかく彼もいて気持ちよく微睡んでいるのだ。このまま朝までもう一眠りしたいのが素直なところ。


きっと彼のことだから何気ない私の一言を拾ってくれていたのだろうとは思うけれど、今はこの睡魔が優先なのだ。彼には悪いなあと思いながらも結局彼がいればそれでいいのだって事実。
久しぶりに一日お休みならば、思いっきり彼と二人で休日を満喫していたい。何もしなくていい、何もなくていい、彼がいてくれたらそれだけで私はしあわせになれるのだから。


だからいまいち納得していない彼にもう一度。


「一緒にいてくれたら、それでじゅうぶん」


せっかくのお休みなのに出掛けてしまうのもなんだかもったいないような気になってしまう。彼と二人だけの世界で何にも縛られずに過ごしたい。


なんて贅沢。


もうひとつ呆れたようなため息を吐き出した彼は、シャワーを浴びてくるという一言だけを残してそそくさと出て行ってしまったけれど、その声がどこか穏やかで嬉しそうな色が混じっていたから彼もなんだかんだで一緒に過ごしてくれる気でいるのだろうなと思うし、そんな日常に少しくらいは幸せというものを感じてくれているのだろうかと巡らせる思考。

その思考も3周した頃には私はやっぱり眠くて眠くて、そっと睡魔に引き寄せられ、またふわりふわりと沈んでいく意識。


すっかり暖まった彼の指が私の頬を撫でるのを感じてそっとすり寄せれば背中にまわる彼の腕。おやすみ、なんて穏やかな声が落ちてきて今度こそ本当に今日にお別れ。



おやすみなさい。明日はどんなに素敵な日になるだろう。







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