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未来なんてわからないけれど

「…リボーンくん」

「なんだ、名前」

「綱吉…変わったね」


中学校生活も終わりに近づいた頃。ずっとずっと幼なじみで、隣にいた綱吉が、ダメツナと言われていた綱吉が、少しずつ変わっている。


女の子にモテたことなんてなくて、勉強も運動もダメダメで、そんな綱吉を馬鹿にしていた男子も、女子も、少しずつ彼を認めているように感じる。

とても良いこと。

とても、良いこと…の、はずなのに


「…寂しい、な」

「本質は変わってねーと思うぞ」

「うん、知ってる」

「それに家庭教師様に言わせりゃまだまだだけどな」


誰よりも優しく、誰よりも暖かく、誰よりも広い心を持った彼。小心者なのは、誰一人傷つけたくない気持ちの表れで、いざって時は誰よりも強い心を持っている。

それを知っているのは私だけ、だったのに。ただの幼なじみの私が何も言うことはできないのだけれど。


「この間もね、告白されてたんだよ」

「知ってるぞ」

「なんか、やっぱり変わった。急に大人になった気がする」

「…ま、色々あったからな」


そうなのだ。

リボーンくんがきてから、彼はいろんな事に巻き込まれて、いつしかそれが当たり前になって。
あんなに華奢だった身体も年相応になって、筋肉質になって、小さかった掌もいつのまにか大きい男の人の掌になっていて。


「置いてけぼり、かなぁ」

「…んなことねーぞ。ファミリーにはお前も入ってるんだからな」

「私、何も出来ないよ」

「名前は頭が良いからな」

「獄寺くんには敵わないよ」

「いっそツナに聞いてみたらいいじゃねーか」

「何て?」

「誰が一番大切なのか」

「ふふっ、なにそれ」


そう、私には山本くんみたいな運動神経も、獄寺くんみたいな頭脳も、雲雀さんみたいな戦闘技術も、骸くんみたいな特殊能力も、笹川先輩みたいな腕っ節も、ついでにランボみたいな可愛げも無い。


そんな私が、将来のドン・ボンゴレを担う彼の傍にいる意味がなんなのか。

幼なじみとして、ただただ傍で見守っていられればよかったのに…いつか別の道に進むんだ、って現実が近づけば近づく程、好きなんだなぁって実感してしまう。


「いっそリボーンくんの愛人にしてよー」

「ガキが何言ってんだ」

「そしたら私がボンゴレにいる理由も、少しは出来るのになぁ」

「ガキは相手にしねーぞ。ついでに面倒事はまっぴらごめんだな」

「面倒事?」

「どうせあいつがうるせえ」

「あいつって、どいつ」

「ったく、二人揃って心底面倒くせぇな」

「あ、ひどい」


日に日に格好良く、というか…密かな人気者になっていく彼を見ている私の相談…もとい愚痴をひたすら聞いてくれて、途中ちゃちゃをいれてくれるのはリボーンくんくらいだ。


「きっとすぐにさ」

「あ?」

「イタリア、行っちゃうんだよね」

「…そのときはおめーも一緒だぞ」

「どうかなー?」

「嫌なのか?」

「んーん。でも、でもね、そんなのが現実になることが少しこわい」

「…」

「いつ、何があるか、わからないじゃん。私じゃ、盾になれない。守れない」

「盾?なんの話?」


どんなにもがいたって、私が彼の前に立てる事なんて、ないんだなぁ…。って、あれ?


「なっ、つ、つなっ…綱吉!?」


ど、どこから沸いたんだろう…!
なんか首傾げてきょとんとしてるし、話は聞いてなかった、みたいだけど…心臓とまるかとおもった…。


「何の用だダメツナ」

「何のって、日直の仕事終わったし、帰らないかなって…っていうかなんでお前また学校に」

「名前が気になってな」

「ん?何かあったの?」

「な、なんでもないよ!か、帰ろう、ね!うん!」

「え?なんだよ、名前ー?」


彼には、悟られちゃだめだ。

幼なじみが、きっと一番心地よくて、ちょうどよくて、それ以上なんて…今はよくても将来きっと困ることになる。一線をこえてしまったら戻れない、一線をこえようとした時点で戻れない、もし壊れてしまったら…?

傍にいられなくなる、彼の仕事の邪魔になる、いつだっていろんなものを背負って生きている彼だから…私まで荷物になっちゃいけないことくらい分かってる。


「ま、がんばれよ」

「ちょ、はぁ?」


って、リボーンくんには筒抜けのはずなのに何を思ったかさらっとどこかへ姿を消してしまった。

心の中でリボーンくんのばか!って悪態をついてみたけど、寒気がしたから即座に謝っておく。くそう。
彼はまだきょとんとしたまま、それでも彼もまたリボーンくんへの悪態をつきながら(聞いててちょっと冷や冷やする)、下駄箱まで来た時だった。


「何の話してたか、わかんないけどさ」

「え?」


心臓が、跳ねた。


「名前は、オレが守るから」


嗚呼…やっぱり彼は、何か感づいてしまったんだろうか。優しく暖かな表情で紡がれる言葉は、力強い反面優しくて暖かくて。


「…それじゃ、意味ないよ。」

「どうして?」

「皆を守ってる綱吉を、誰が守るの」

「自分の事も、自分で守る。なんて、言える程…まだ、強くないけどさ」


困ったように笑う綱吉に思わず次の言葉を待ってしまう。


「でも、名前に心配かけないくらい、強くなるよ」

「…」

「それに、オレ将来イタリア人ともマフィアともどこかのお嬢様とも結婚する気なんてないからね」

「………は?」

「あれ、そういう心配じゃなかった?」


へらっへらと笑いながら、なんだかお見通し…なの?


「オレはね、名前。名前さえ守れたら、それでいいんだよ」


いつもの笑顔で囁かれたら、たまったもんじゃない。


「じゃ、じゃぁ、やっぱり、私が綱吉を守る、よ。何も、出来ないけど…いざって時は」

「や、盾になるなんて言わないでね」

「なんで!」

「そんなことされたら、オレきっと一生後悔する」

「…よくわからない」


よく、わからないけど


「なんでだよ!」


彼が笑ってくれるなら、もうしばらくは考えることを後回しにしても良いのかもしれない。


「っていうかさあ、そんなに悩んでるなら」

「んー?」

「幼なじみ、やめちゃおっか?」




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