文 | ナノ
(お菓子をくれてもイタズラするけどね)
「なっえぎーー!トリックオアトリーーート!」
「江ノ島くん…」
10月31日。
希望ヶ峰学園78期生のクラスでもハロウィンに飛び交う恒例の言葉。
「苗木!お菓子くれなきゃイタズラしちゃうよー」
ニッコニコの笑顔で、僕の前に現れた江ノ島くん。
きっと、僕がお菓子を持ってないと思っているのだろう。
「僕はちゃんと今日の為にお菓子を買って鞄にいれて…いれ…あれ!?」
「あれれー?苗木くーん?お菓子持ってないのーー?」
「ちょ、ちょっと待って!」
急いで、鞄を床に置いてガサゴソと中身を漁る。
でも、一向にカラフルな色をした袋が視界に入ることはない。
「確かにいれ…あ!!」
今日、校内を歩いてる時に真っ白いフワフワとした毛並みの大きな犬が紛れ込んでいるのを見たんだ…。
その時、どこから入ってきたのかなー?迷子なのかなー?って心配しつつも、スルーしようとしたら僕に気づいた犬が猛突進して飛びついてきた。
まぁ、抱きとめられるわけも無く一緒に後ろに倒れたんだけど、その時に持っていた鞄が大きな放物線を描いて飛んでいくのが見えた。
その鞄は、草木の茂みにガサガサと音を立てて、突っ込んでいった。
「イテテ…何するんだよ…うわ!頭擦り付けるないでよ!…怖かったのかな?」
「わふっ!クーーン…」
「わふっ!くーーん」
「へ?声がもう一匹分する・・・?」
大きな犬より高めの泣き声が茂みの方からした。
視線をぐるりと巡らせて、声の元を探すと、僕の鞄が突っ込んだ草木の茂みからガサガサと音がした。
「えっと…お前の友達?」
「わふっ!」
肯定するように、大きな声で鳴かれた。
「じゃあ、2匹で迷子になったのか…」
「ワンッ!」
その声に、肯定するように少し高い鳴き声が聞こえ、ガサッと大きな草木が揺れる音がした。
その瞬間、草木の茂みの間から茶色い毛色をした中型犬が僕の鞄を咥えて現れた。
「あ、僕の鞄!ありがとう!…ちょ…どいて…うわっ!顔舐めるなよ!」
「ハッハッ…ワンッ!」
未だ、僕を押し倒すように跨る大きな白い犬をなんとか退かして、茶色い犬から鞄を受け取った。
「ありがとう。」
頭を撫でてあげると、気持ちよさそうに僕の手に擦り寄ってくれた。
でも、すぐに大きな犬に服を引っ張られて引き剥がされた。
振り返ろうとした瞬間に、辺りを学校のチャイムが響き渡った。
「遅刻になっちゃう!!!じゃあね!」
「あの時だ!!!!あの時までは鞄に入ってたし…」
そろそろと江ノ島くんを見上げると、ニヤニヤした江ノ島くんと目線がバッチリと合った。
「うぷぷ…持ってないの?え?持ってないの?犬にでも持っていかれたの?」
「なっ!何でそれをしっ…!?まさか江ノ島くんがけしかけたの!?」
「え?俺知らないよ〜?希望好きそうな白い犬と才能なんて持ってない茶色い犬なんて知らないよ?」
その後の事は、思い出したくも無い…。
来年は何がなんでも、お菓子を持っていこうと決心した。
END
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