文 | ナノ
(またね。)

「これに入ることで、記憶が戻るの?」

近未来的なカプセルや、迂闊に触ってはいけなそうな機会や装置が並ぶ空間に連れてこられた。
僕たちは、あのコロシアイ学園生活から脱出後すぐに未来機関に保護されて、記憶を戻すためにこの装置にかけられる事になった。

「これに入り、脳の奥底に眠る記憶を呼び覚ます事で、記憶を復活させます。」

黒いスーツを着た未来機関の男性の説明に、他のみんなは少し不安そうではある。
でも、僕はもう立ち止まらないって決めたんだ…。
死んでしまった仲間の為にも…なにより、今立ち止まったら江ノ島くんに負けた事になってしまう気がする。

「わかりました。よろしくおねがいします。」
「苗木くん…。そうね、今更立ち止まれないものね。よろしくお願いします」

僕が、未来機関の人に大きく頭を下げると、霧切さんが静かに頭を下げた。
そこから、みんなが順番に頭を下げて、あの十神くんでさえ頭は下げなかったけど、お礼を言っていた。

「それでは、指定された場所の装置に行って係員の指示に従ってください。」

みんなが係員から説明をされて、装置に入ろうとした時。

「じゃあ、みんな!また後で会おう。」

静かだった空間に、僕の声が響いた。
朝日奈さんや葉隠くんからは、元気な返事が聞こえたし、十神くんと腐川さんからも小さな声で返事をして貰えて、僕は本当に嬉しくなった。
みんながカプセルに入って、残ったのは僕と霧切さんだけになった。

「いい?苗木君…。私たちはあなたに何かあっても、帰りを待つから。ちゃんと帰ってくるのよ?」
「もちろんだよ。」
「その返事が聞けて安心したわ。じゃあ、また後で会いましょ。」

最後の霧切さんがカプセルに入ると、僕もカプセルに入った。

『みんな…行ってきます。』

静かに僕の意識は、途切れていった。




『…木…な…え…』
「ん…」
『苗木…』
「ん…?」

誰かに呼ばれる声と髪の毛を引っ張られる感覚で、僕は目を覚ました。
机に突っ伏して寝てたようで、頭を上げると至近距離に江ノ島くんの整った顔があった。

「え。」
「おっはよ!苗木!」
「な、なななななな何でお前がここに!!!!」
「だって、ここつまらないからさ。苗木をご招待しちゃった」

『しちゃった』って、可愛く言ってるけど全然可愛くない。
呆れながら、周りを見渡すと見覚えのある教室。

「希望ヶ峰学園…?」
「そうさ。ここは、苗木の記憶の中の希望ヶ峰学園。」

笑っていた顔から、すーっと笑みが消えていく。

「ここでは、苗木の思い通り。なんでも叶うんだぜ?したい事はなんだってできるし、なんだって思い通り。」
「何が言いたいんだ」
「ここで、一緒にいようぜ?」
「…」
「大嫌いな苗木とだけど、死ぬほど退屈なここに苗木がいたら、退屈しないと思うんだよなーって、俺もう死んでたわ!うぷぷ」

突然の事に、混乱してた頭がハッと我に帰った。
そうだ…。江ノ島くんはもう死んでる…もう、僕とは同じ時を歩める人間じゃない。

「君は、死んだんだ。君の時間は止まってるんだよ?でも、僕の時間はまだ進んでるんだ。」
「だから?今すぐにだって、苗木の時間は止められるし、止める方法だっていくらでもある。」
「それでも、僕は君に負けたくない。」
「…ま、いいやー!ここにお前がいたら、結局イライラするだろうし」

少し乱暴に立ち上がったせいで、ガタリと音を立ててイスが動く。
それにさ…僕には、待ってくれてる人がいるからね。

「…またね。」
「苗木」

驚くほど冷たい声色名前を呼ばれ、体が一瞬固まった。
その瞬間に、胸倉をつかまれ体を大きく引き寄せられる。

「次に会うときを楽しみにしてろ。」

楽しそうに無邪気に笑う、彼の笑顔に僕の時間が止まった。
オシオキを受ける彼を、思い出してしまったから…。

僕の思考が止まった隙に、大きく開いたパーカーの襟部分から見える首筋に江ノ島くんは噛み付いていた。
食いちぎられるんじゃないかと思うほどの、強烈な痛みに悲鳴は音にならず、そこで僕の記憶は途切れた。



『…木…な…え…く』
「ん…」
『苗木…くん!!』
「ん…?」
『起きてください。みんな待ってますよ?』

デジャヴ・・?
ハッと勢いよく意識が覚醒した、今度は違う…江ノ島くんの声じゃない。
この声は…舞園さん…。

「な、苗木が起きたーーー!!!」
「苗木っちが起きたべーーー!!!!」
「苗木くん!私たちが分かる?」
「うん…大丈夫。ちゃんとわかるよ」
「私が、見てるから朝日奈さんと葉隠くんは担当者を呼んできて。」
「わかった!」
「わかったべ!」

心配そうに僕を除きこむ、霧切さんの説明だと、僕はみんなより1週間ほど長く眠っていたようで、みんなが交代で様子を見ててくれたらしい…。

「おかしいわね。昨日までは、首筋に歯型なんてなかったのだけれど…。」

僕を見た、霧切さんは不思議そうにカプセルの透明の蓋に手を当てた。

「あぁ…これは、嫌がらせ…なのかな。」

あはは。と誤魔化すように笑うと、霧切さんはそれ以上は何も詮索はしてこなかったけど、きっと彼女ならすべて分かったんじゃないかな。
じゃなければ、僕に

「苗木くん…首筋へのキスは執着を表すそうよ。歯型だから、それに当てはまるかは、疑問だけど…。知ってたかしら?あなたは、嫌がらせって言ったけど当たってると思うわ。嫌がらせの相手は苗木くんにじゃなくて、私たちにでしょうけど。」

なんて、言わないよね。
でも、後半の意味はよくわからなくて、何度も聞くんだけど教えてくれないんだよね。

END






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