文 | ナノ
(おつかれサマー)

暑さのせいなのか、たった今僕を悩ませている桑田君のせいなのか、目眩がする頭を押えて状況を整理した。
桑田くんに誘われて、一緒にプールに来たって事は覚えてる…。
それからプールサイドに勢いよく出てきて、早速プールに入ろうとした所で止められたんだった…。

「苗木!何、泳ごうとしてんだよ!」
「え!?プールに来たら、普通は泳ぐでしょ?」
「馬鹿!お前、プールって言ったらナンパだろ?ナ・ン・パ!」
「え・・・?」

桑田君が人ごみの中にあっという間に消えて行ったのは、その数秒後の事。

「どうしよう。下手に動いたら、絶対に会えなくなっちゃうよなぁ。」

夏休みの真っ最中で、学生や子連れの家族で大人気のこのプールでは、会える確率は低いだろう。

「もぉー!桑田くんどこにいったんだよー!」
「あっれー?苗木じゃーん。」
「え、江ノ島くん!?」

さっきから、後ろでキャーキャー騒がしいなぁとは思っていたけど、どうやら江ノ島くんが女の子に騒がれていたようで…。
正直、スタイルのいい江ノ島くんの隣に立ちたくない。

「わっりー。俺、コイツと待ち合わせしてたからさー」
「え!?僕はちがっ!」
「バイバーイ」

僕の肩に手を回して、女の子を追い払う手馴れた感じに、はっきり言って、嫉妬よりも羨ましさを感じた。

「はぁ…江ノ島くんは何でここにいるの?」
「今日は、ここのプールで仕事があるんだけどな。ちょーっと、会場抜け出たらこれだよ。うぜっ」

ダルそうにする江ノ島くんをチラリと盗み見ると、薄っすらと汗ばんだ体は、しっかりと筋肉が付いていて、整った顔に見合うスタイルの良さに僕はため息をついた。

「あ。そういえば僕、桑田くん探してるんだけど江ノ島くん見なかった?」
「は?桑田?見てないけど…あっ!もしかして…苗木ってば、迷子ですか〜?うぷぷ〜」

未だに、僕の肩に手を回している江ノ島くん。
必然的に顔が近いわけで、ニヤニヤとしてる江ノ島くんの顔がグッと接近してきた。

「違うよ!僕がじゃなくて、桑田くんが居なくなったんだよ!ってか、江ノ島くん近い!近いから!!」
「なんだよー照れてるの?かっわいいー苗木。あ、良い事考えた。俺も時間あるから一緒に遊ぶか!はい、ドーーーン!」

息継ぎ無しに早口で言われ、言葉を理解する前に、体がちゅうへと浮いた。

「うわぁああああ」
「すっげ。苗木軽いから、すごい飛んだな」

江ノ島くんが僕を抱き上げて、プールへと放り投げたのだった。
手に持っていた浮き輪も飛ばされたようで、僕の下に…ん!?あれ!?僕、今浮き輪にハマッて…。

「ちょ、ちょっと!江ノ島くん!浮き輪から抜けないんだけど!」
「やっぱ、苗木って幸運っての間違いなんじゃね?お尻がすっぽり浮き輪にはまっちゃうなんてさ。」

せめてもの抵抗として、プールサイドから、楽しそうに笑いながら見下してくる江ノ島くんを、精一杯睨んでおいた。

「笑うの飽きたし、手伝ってやるよ。」
「相変わらず、飽きるの早いね。」

僕の言葉には、耳を傾けず鼻歌を歌いながら、バシャバシャと水を掻き分けて、近づいてくる。
これで、助かるとホッとした僕が馬鹿だったんだ。
江ノ島くんがやすやすと僕を助けるわけがないと‥痛いほど知っていたのに。

「そ〜っれ!」

掛け声と一緒に、僕の視界は空から水の中へと180度回転した…それは、もう見事に。

「ゴボゴボゴボッえ…の…ゴボッ」
「こういうのって、普通逆さにしたら取れるもんじゃん?」

この時の江ノ島くんは、ニヤニヤしながら僕を見てる。絶対!!!

「ゴボッ…えのっ…たすっ…ゴボボボ」
「えっ?なにー?聞こえないー!早くしないと死んじゃうよー?」

バシャバシャと水を精一杯手で、押して顔を出して酸素を吸おうと頑張るけど、うまく行かず、『あ、これ僕死ぬんじゃないの?』って、一瞬思った時だった。

「大丈夫?」
「ハァ・・・ハァ・・・戦刃…くん・・・?」

僕の脇に手を入れて、プールから助けてくれたのは戦刃くんだった。

「何すんだよー。今、いいところだったのに。」
「ハァ…ハァ…僕、死ぬ…かどうかの…ハァ…分かれ道だったん…だけど…」
「その時は、この大衆の面前で人工呼吸してやるよ。今でもいいんだぜ?」

視界がぼやけて、はっきりはしないけど青い瞳が徐々に近づいて来るのは理解できた。
でも、寸前で戦刃くんが僕を違う方向に移動したせいで、未遂に終わった。

その後、近くのお店で飲み物を飲んで休んでから、どうしようかと考えている時だった。

『ピンポンパンポーン…。迷子のお知らせをいたします。〜からお越しのナエギマコトくん。お連れ様がお探しです。〜』

僕は、持っていた紙コップを握りつぶした。

心配して迷子センターに行くと桑田くんと、その日江ノ島くんと同じ仕事でここにきていた舞園さんも立っていた。
放送を聞いて僕が迷子になったと、思ったようで心配そうにしてくれた。でも、桑田くんは僕が小さいから見失ったと説明したようで、その事を知るのはまた後日。

END







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