文 | ナノ
(ハッピーバースデー)


ガシャン…ガシャン…と背後で動く大きな仕掛けに、笑顔で徐々に近づいていく。

苗木は意思の揺るがない真っ直ぐな瞳で、俺の最後を見ているけど記憶が戻った時どんな表情をするかな。


1年前の今日。


「江ノ島くん!誕生日おめでとう!」

そう言いながら目の前に現れた苗木は、ニコニコとしながら箱を差し出した。
両手から少しはみ出すくらいの大きさの箱。
さっきから漂うミルクの甘い香りから予測するに、きっと中身はケーキとかだろう。
俺、甘いもの苦手なんだけど…。と、思いながら上辺だけの御礼を言って受け取ろうとした。
…が、その瞬間。俺の手からすべり落ちる箱。

グシャ。

「わ、悪い!手が滑って…。」
「そ、そんな!大丈夫だよ。僕もちゃんと江ノ島くんが受け取ったの確認しないで手を離したのがいけないし…。」
「中身なんだったんだ?落としても大丈夫な物だった?」
「…ケーキ…だったんだけど…」
「ご、ごめん!苗木。」
「ううん!大丈夫大丈夫」

俺が肩を落として落ち込んでいると、苗木は必死に俺を慰めてきた。

「ケーキの材料ならまだあるし、もう1回作るからさ!潰れちゃったなら、もう1回作ればいいからさ!」
「苗木…」
「じゃあ、また後で持って来るね!」

パタパタと軽い足音をさせながら、苗木は立ち去った。
残されたのは、歪な形になった箱と潰れたケーキと俺。
そっと箱を拾うと、部屋にそのまま持ち帰った。

パタンとドアが閉まる音を確認してから、ニヤける口元を片手で隠した。
それでも、隠し切れない声や目元から体を揺さぶる快感が溢れ出てくる。

「うぷ…うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ…うぷぷぷぷ…」

あぁ…なんて素晴らしい絶望顔だったんだろう!!!
一瞬とはいえ、苗木の見せた絶望顔!!
ケーキを落としたのは、わざとなのに苗木は疑いもせずに、また俺の為にケーキを作ろうとしてくれてる。
料理が元々できる苗木とは思えない…と、いうことは誰かに頼んで教えて貰ったんだろう。
そんなケーキが無残に潰れた瞬間の苗木の顔を思い出すだけで、俺の体はブルブル震えて快感に身悶えた。
大好きな苗木が俺を想って作ってくれた物を潰して、その瞬間の絶望した顔を見るのは俺だけの特権。


ガシャン…ガシャン…

1年前の今日、苗木は俺に『潰れたならもう1度作り直せばいい』って笑ったけど、潰れても直せないものは、たくさんあるんだぜ?

苗木がすべて思い出した時、また同じように『また作ればいい』って笑えるのかな?
お前の目の前で、ケーキと同じように潰れていく俺とはもう2度と作り直せない関係。
それを、知った時の苗木の絶望顔…楽しみだな。


グシャ。


END


もし、盾子ちゃんが誕生日におしおきを受けてたらっていう妄想。






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