文 | ナノ
(初めての味。)
部屋を出ると、廊下をテクテク歩く苗木を発見した。
後ろから、毎朝恒例の挨拶をする。
「やっほー!苗木!今日も絶望的にかわいいね!」
「な!男に向かって、可愛いって褒め言葉じゃないよ!」
顔を真っ赤にして、怒る苗木。
「124回目・・・」
「え?」
ポカンと口を開けてから眉をはの字に下げて、俺を見上げる苗木に俺は身震いした。
苗木が俺に困った回数。
そして、苗木が俺に絶望しなかった回数。
「冗談だよ!そうやって、怒るなって!」
「もう!何回言っても、江ノ島くんがそうやって言うからでしょー!」
あぁ、絶望的だよね…。
「なぁ、苗木?俺がもし、苗木を大好きって言ったらどうする?」
「僕だって江ノ島くん大好きだよ!いつも、意地悪ばかりするから嫌われてるのかと思ってたよ!」
えへへ…と嬉しそうに照れ笑いをする苗木は、花がフワリと咲くような可愛さがあった。
でも、俺の大好きは”LIKE”じゃなくて”LOVE”。
「じゃあ、大嫌いって言ったら?」
ニヤニヤしながら苗木に問いかけると、一瞬だけ絶望を滲ませた顔をさせた後、すぐ俺の嫌いな色をした瞳で真っ直ぐに見つめてきた。
「それでも‥僕は好きになってもらえるように頑張るよ。」
あーあ。本当に嫌いだな…その顔。
俺は、ふーん。と、つまらなそうに返事をしてから食堂に行くために苗木に背を向けた。
「ぼ、僕も一緒に行くよー江ノ島くーん!」
「苗木歩幅小さいから、俺について来れなかった?」
「もう!そんなことないから!い、イヤ確かに背は小さいけれど頑張ればそのうち江ノ島くんほど大きくなるはず…」
俺の半歩後ろを必死に歩きながら、ボソボソ野望を口にする苗木に笑ってしまう。
ってか、苗木って俺にいびられてもこりもせずに話しかけるよね。
苗木が他の人と話しするのはもっと嫌いだし、苗木が俺以外に笑いかけるのなんて絶望的に嫌い。
俺をこんなにも絶望的な気持ちにさせてくれるのは、苗木だけ…。
「江ノ島くん!僕ね!毎日、江ノ島くんと話せるのが楽しみで仕方ないんだ!だから、例え嫌われても話しかけるからね!」
太陽な笑顔を俺に向ける。
反応のない俺に恥ずかしくなったのか、「先に行くね!」と顔を真っ赤にしながら食堂に走っていった。
後姿を見つめて、手で口元を隠す。
「うぷぷ・・・125回目…」
俺が絶望させられた回数。
END
江ノ島くんは、この後食堂で嬉しそうにみんなと話す苗木君を見るたびに絶望します。
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