文 | ナノ
(偽者)

僕は江ノ島盾子に造られた。

何を意図として作ったかは、知らないけれど江ノ島盾子の中にあるデータを元に造られた偽者の【苗木誠】。

最初は、希望が嫌いだった。
彼の、暗い絶望の中でも輝く瞳が潰したくて仕方なかった。

でも、ある日気づいてしまった。
彼の希望はどんなにつらい現実が自分の前に立ちふさがろうとも、どんなに不利な立場に立たされようが仲間を信じ、そしてたまに後ろを振り返りながらもそれらを乗り越えられる心の強さ。
すべてが彼を輝かせていた。

気づいた時には、すでに人間の感情で言う【恋】というものを苗木誠にしていた。
同じ姿をした僕らに決定的に欠落し、違う所。
探し始めたら限がないし、そこがすべて愛しい場所になる。


コロシアイ修学旅行の最終裁判後。
僕は、何故か生かされた。
たまに、苗木誠が話しかけにきてくれて僕らは他愛も無い話をする。

「今日はねーーーー」
「なんだよそれー」

彼と話せる喜びと共に、絶望を味わった。
江ノ島盾子の話題が出ると辛そうに、でも優しげに話す彼の姿。

「苗木誠は江ノ島さんが好きなの?」
「そ、そそそそんなことないよ!」
「どもりすぎだよーあはは」
「っ!?からかってるのー?」

このまま話をすりかえれば笑い話にできたのに…最後に彼が呟いた。

『好き…なのかな?でも、もっと彼女と一緒にいたかったのは本当。この【一緒】はだれとも比べられないくらい特別な一緒…かな』

その呟きに、僕は画面を叩いた。
僕と彼とを遮る薄くてとてつもなく厚い境界線。

「なんでっ!僕じゃないの!こんなにも…あぁ…こんなに・・・うぅあああ・・・」

画面に両手を叩きつけて、瞳から涙をとめどなく流して叫んだ。
こんなにも、絶望してこんなにも希望を望んで…彼が欲しい…彼女のものである彼が欲しい。

「僕はここにいるよ?ずっと・・・ここにいるよ」

画面に手を合わせてきて、そっとおでこを当てられ、優しい声が聞こえる。
こんなに液晶画面をにくく感じたのは初めて…これさえなければ、苗木誠をこっちの世界に閉じ込めて、ずっと2人で偽装の幸せに浸って暮らすのに…。

こんなに優しい言葉が欲しいんじゃない。
どんなに叫んでも、血が出るまで画面を叩いても、僕の声は彼の心には届かない。

愛しています。

END

ののさんリク小説^^




BACK
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -