死んでもいいわ
月は闇夜に浮かぶ一つの道標だ。月光が照らす一つの道を、ここしばらく私は歩んできた。闇の中で生き、闇の中で死ぬ。誰にも弔われず、誰にも想われず。独りで。そう考えていた私に突然現れたのが、愛しい私の月だった。
月は夜に私のもとを訪れて、気まぐれに私を弄ぶ。時に酷く、時に優しく。
「ボクはキミをかなり気に入っているんだけど、キミはボクのこと、どう思ってるんだい?」
微睡む意識の中、聞こえた声が忘れられない。吐かれた言葉が何も含まない薄っぺらな嘘だと気付いたとて、それでも良いとさえ思えた。一時だけでもこの関係に名前がつく。それがどれだけ喜ばしいことか、言葉を吐いた月には想像もつかないことだろう。
照らされた道はまだまだ続いていく。退路も横道も逃げ道も、闇が覆い隠して目に付かない。
そうして月と生きるために進んできた道が、私の破滅への道だったと分かっても、進まざるを得なかった。引き返すことも出来ぬほど、随分深いところまで来てしまったのだから。
下がる体温、草臥れた体躯、濃く香る鉄の匂い。目にかかる赤を拭おうにも、腕はさっき死神に奪われてしまった。
闇とは正反対の白を纏う死神が私の前で屈み込む。目線を合わせ、ぴたりと私の首に最期を突き立てる。抵抗はしなかった。出来なかった。ここで死ぬのが、私の運命なのだろう。
ああ、困った。
「バイバイ」
こんな時でも、私の月は美しい。