冬の帰り道
「寒い!」下校途中のバス停。マフラーに半分顔を埋め、コートのポケットに両手を入れてペンギンのように背を丸めている彼女はそう訴える。季節は師走。昨日の雨で一気に冷え込んだ気温に彼女は朝から不満を漏らしている。
「仕方ないでしょう。冬なんだから」
「それにしたって寒すぎるよ!」
その場で地団駄を踏みながら体を温めようとしているが、無駄な抵抗のように見える。今日の最高気温は五度。滅多なことで体を温めることなんて出来ないだろう。突然の気温の変化にカイロなんて持ち合わせていない僕に、彼女を温めてあげる手段なんて一つしか思い浮かばなかった。
「ほら、手を出して」
そう声をかければ、彼女はのそのそとポケットから手を抜く。素直に差し出された手先は寒さからか赤く染まっていてとても冷たそうだ。彼女のその小さな手のひらに、僕の左手を重ねる。ゆっくりと力を込めれば、冷たい体温が僕に移りこんできた。
「へへ、あったかい」
先程までの不満そうな顔はどこへやら。僕からは目元しか見えないが、ニコニコと上機嫌な表情を浮かべているのが見て取れる。身体も僕の方にくっつけてきて、まるで僕の体温を全て奪おうとしているみたいだ。でも、彼女になら奪われてもいい、なんて馬鹿なことを思ってしまう。
バスが来るまであと五分。じわじわと温かくなる手のひらを感じながら、僕は手に力を込めなおした。