奥村燐は甘い。
内面的な意味も含めて、その存在自体が。
例えば見つけた背中にぎゅ、と抱きついたとき。仄かに香る甘い匂い。
ふと聞いてみればつい先ほどまでおやつ用にケーキを焼いてたらしく今から届けに行くらしい。誰に?聞かなくても分かる。だっていつも愚痴っていたんだから。
なんとなく面白くなくて、ひとつ強請ってみればえーという声と共に苦い顔をされた。
「あ、じゃあ毒味してあげます」
「ばぁか。奥村さんの腕を舐めちゃいけねぇぜ?今回は自信作だからな!」
「そんなに自信作ならボクにくれたっていーじゃないですか」
「あ、てめ、それ揚げ足って言うんだぜ!」
「あーん」
揚げ足だろうがなんだろうが食べたいんだ。
大好きなお菓子だからか、奥村燐が作ったお菓子だからかなのかはよく分からないけれど。
りん。
背中にくっついたまま呼べばあーやらうーやら唸って結局折れたのはやはりお兄ちゃん気質の燐の方だった。
「お前って甘え上手だよなー…」
振り向き様、口に入れられた柔らかなスポンジの甘さ。流石と言うべきか文句無しにおいしい。ただ兄上好みに甘さ控えめだったのが気に入らないけど。
「ふぃんもほはひひょうひははひんへふは」
「はいはい飲み込んでから喋ろうなー」
「…りんも同じように甘いんですか」
「は?」
甘い匂いのするそれにもう一度問う。
「燐からはあまい匂いがします。燐も舐めたらあまいんですか。てゆーか舐めてもいいですか」
「っ!?本当に舐めんじゃねぇえー!!」
舐めようとしたその瞬間、ばきっと結構本気で殴られた。
ばかぁあ!という泣き声と共に。
……結構痛かった。
▼ 君の半分は甘さで出来ていると信じてます。