「一生の心拍数は決まってるって知ってます?」
今日も今日とて理事長室に差し入れに来た俺はお茶をごちそうになって、その後しばらくメフィストの仕事っぷりを見ていた。
黙ってればいい男なのになぁと思いながら。
そうやってぼんやりしていたらぽつりと空間に響いた声。
メフィストの唐突な話はいつものことで聞き流すことも度々なのだが、なんとなく今回は気になってしまったので続きを促す。
「おっと今回は興味がおありで?」
「いーだろ別に」
「ぷくく、いいですけど」
メフィストの話を聞くとこうだ。一生の内、心臓が拍を打つ数は決まっていて、ドキドキするたび寿命が短くなってるらしい。図太い人間が長生きするのにはそんな理由があるのだとか。
「だから私は燐くんに毎回寿命を削られてるんですよ」
「へ?」
「ああもうそうやって無意識に上目遣いとかしないで下さいよ殺す気ですか…!」
「え?待てよ意味わかんねー」
意味が分からなくてどういう事かと考えあぐねているとはぁっと溜息が聞こえた。君に信用されてるのはありがたいんですけどね…と小さく聞こえた。
あれ、なんか馬鹿にされてる?不機嫌さが顔に出てたのか苦笑されて膝の上に招かれた。特に拒む理由も無いのでメフィストの膝の上で大人しく収まってみる。
「さっきだって私をじっと見てたでしょう?君には特に他意は無いんでしょうけど私としましてはドキドキしっ放しな訳ですよ、燐くん」
「っあ…!」
え、何。メフィストって俺に見られてドキドキしちゃってんのか。うわーすげぇ。
「今だって危機感無さすぎですし?」
「だからって…」
あれ。なんかそう考えると恥ずかしくね、この状況。
急に恥ずかしくなって俯く。ちらっと少しだけ上にあるメフィストの顔を伺うように見てみた。そしたらばっちり目が合ってしまって。思わずあからさまに目を反らしてしまった。
君はまた…という声が聞こえたかと思ったら不意に声が途切れてどうしたんだろうとも一度見たらデコにちゅ。という感触。…?か、ん、しょ、く…?
「ッ!めめめメフィストおまえ…!?」
「…おや?燐くん、顔赤いですよ?」
「今、いま、おま…!」
「ドキドキしました?」
「……したけど…!」
「それじゃ私も燐くんの寿命を少し削ったということで、おあいこですね☆」
ウインクつきで笑われた。
これっておあいこか…!?俺ばっかりドキドキした気ぃすんですけど!
「おあいこです。私だってドキドキしないわけないでしょう?君がこんなに近くにいるのに」
「……ま、まぁ…そゆことにしといてやる…」
「ありがとうございます」
……その大人の余裕っぷりがムカつくんだけどな。
きみに殺されるまいにち▼(まぁそれも悪くない)