(越前くん、堪忍な?)
※白リョ


「金ちゃーんどこいったんやー?」

将来有望な今年のルーキーは元気が良すぎてよく何処かへ行ってしまう。コート内をざっと見回しても目当ての赤髪は見つからなかった。もしや自販機で飲み物でも買っているのかと踵を返そうとしたその背に衝撃。

「うをっ!何や!?」
「……白石さん」

ふっと振り返れば眼下に真っ白な帽子。帽子の下の艶やかな黒髪の下から覗く大きな黄金色の瞳と目が合う。ジャージの裾が握られていることを確認し、ようやくこの白い帽子がぶつかってきたことを理解する。

「……どないしたん?」
「ねえ、俺のこと匿ってくんない?」
「ええけど、一体何があったんや」
「あんたのとこの遠山」
「またあのゴンタクレは人様に迷惑かけよって。どこに居てた?」
「多分すぐこっち来ると思うッス」
「ほーん。飛んで火にいるなんとやらやな」
「コシマエー!!げっ、白石や……」
「げって何や、金ちゃーん?人様に迷惑かけたらあかんって毎回言うとるよなあ?」
「だってコシマエがワイとテニスしてくれへんのやもん!」
「阿呆!越前くんにも都合があるっちゅーことを考えたり」
「ちぇー」
「金ちゃん、言うこと聞かんとどないなるか分かっとるよな?」
「げーっ!毒手は堪忍や!」
「向こうでケンヤが暇しとったから相手したり」
「えぇー!?コシマエが居らんとつまらんわぁ」
「……ケンヤが今頃泣いてんで」

コシマエ見つけたら捕獲しておいてやー!と伝言を残して再びコートの方へ走っていく背中を見つめた。ほんま元気やな。
のそり、背中の存在が動いた気がしてそちらへ目をやる。うろ、と視線をさ迷わせ、白い帽子を深く被った子供の口からぽそりとした声がする。

「えっと、ありがとうございました」
「毎度毎度すまんなあ」
「あいつは言うこと聞かないから仕方ないっす」

ひょこりと抜け出し、静かに離れていく熱。生ぬるい風が吹いて石鹸のような香りがふわりと鼻を掠める。

「……っ、」

咄嗟に細い腕を捕まえようとして一拍。寸で自制する。白いユニが指先を掠めた。

「でもあいつがあんなにあっさり言うこと聞くとか意外だったっす」
「これでも伊達に部長やってへんで?」
「へえ、さっすが。貫禄が違うね」
「越前くん適当言うてへん?」
「まさか!でもさっきの会話で謙也さん誘おうと思ってたのを思い出しちゃ――、っ?」

所在を失ったその腕で、親友の名が漏れた小さな口を後ろからそっと塞いだ。

「……、何?」
「……、何やろ、?」
「は?」

慌てて引き止めた腕をぱっと離す。
……何をしようとしたのだろう。

「――?変なの、」

(何となく、何となくだ。)

「せや。今謙也んトコに金ちゃん行かせてもうたから、今日は俺と打たん?」
「……イイっすよ。四天宝寺の部長の実力教えてよ」
「はは、お手柔らかにお願いしますよって」
「ガッカリさせないでよね」
「任せとき」

それじゃ、俺らもコートの方行こうよと誘われてその背を追う。

――てのひらに少年の柔らかな肌の感覚がまだ残っている。
ため息を吐き、口を覆った。

(……あかんなあ、)

シャンプーの香りに狂わされて、自我を失うなど。
あの髪ごと掻き抱いてしまおうと思ったなど。

「……ホンマ、笑えんっちゅうに、なあ?」








※白石の好みのタイプはシャンプーの香りがする子!!
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