空が落ちた日の話
※イザヤオリハラだけが楽しい




――今日臨也さんに会ったのは確実に『偶然』だ。
こんな人の通らない所で出会ったのも、ちょっと話せる時間があったのも、近くの暗い路地に入ったのも、『偶然』の筈だ。

折原臨也は笑う。目の前にいる少年を恍惚の眼差しで見つめ、整ったその顔を甘く歪ませながら。
それはこの状況で余りに異質だった。

「会いたかったよ帝人くん。俺は君に伝えたかったんだ、君は最高だと、君はまさに理想の人間だと!ここで『偶然』君に会うのに運命すら感じるよ!いや、世の中には『必然』しか無いんだってね?つまりは俺と君が出会うのは運命って事だね!ね、興奮するだろ?思わず君を抱き締めてあげたくなるよ!人ラブ!俺は人間を愛している、だからこそ人間らしい君が本当に愛おしい!――……一度見たときから君には期待してたんだよ帝人くん!やっぱり君は変わってなかった、いや悪い意味じゃないんだ、進化してるんだ、それも予想以上にね!ふふ、楽しいなぁ!もっともっと俺を楽しませてくれ!ねえ、ほら分かるかい?俺の心臓の高鳴りを!俺は今猛烈に感動している!やっぱり君に興味があるよ」
「え、あの、臨也さん……?」

折原臨也は酔っていた。この状況に、竜ヶ峰帝人という人間に。帝人の言葉をいいように解釈する程度には。
そのまま折原臨也はマシンガンのように話し続けた。

――もっと帝人くんが見たい。もっともっと!

「……――後から引っ掻き回すつもりだったけど気が変わった。俺は君の進化を最前列で見たいからね」
「どういう……?」

少年が純粋な疑問を口にしたときには目の前は真っ黒に染まっていた。
そこでようやく気付く。自分が抱き締められている、と。
――は!?何で僕臨也さんに抱き締められてんの?
混乱する頭に追い討ちをかけるように、少年の耳にバリトンボイスが響く。

「ねぇ、」

――今から君をめちゃくちゃにしたいんだけど、いいかな。

「え、あの、」

そんなのまっぴらごめんです、言おうと開けた口に異を言わせないかのようにすぐさま『しぃー……』と、人差し指によって閉じられてしまった。
ニコッと端正な顔に笑顔が浮かぶ。笑ったはずなのに、知らない人が見ても見とれる程度には綺麗な笑顔なはずなのに、空気が一瞬に……冷えた。なんだろう、この人が分からない。怖い。
――怖い。
そしてそのまま近づいてくる手のひらが異常に恐ろしくて、後退りすれば数歩しないうちに背中にとん、とコンクリにぶつかってしまう。
逃げられな、い?
抵抗らしい抵抗も出来ずにそのまま両腕が捕らわれてしまう。
目の端に彼の口角が更に歪むのが見えて思わずきゅっと目を瞑る。

「君は……ああ、まぁいいや」
「へっ?……ん、ぅ…、!?」

少年が気付いたときには唇に『何か』が押し付けられていた。
訳が分からず、疑問を投げようと開けた唇に生暖かい塊がぬるりと滑り込む。

「……ッ!?」
「ぁは、帝人くんって口ちっちゃ……」
「っぁ、ん、んぅ…ッ」

その暖かい塊は歯列をつつ、となぞって口のなかをめちゃくちゃに蹂躙してゆく。息も苦しくなるくらい長い間、耐えられなくなって相手の肩をばんばん叩けば満足したのか、己の舌に軽く歯を立ててからちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて離れていった。

「っ、はぁ…、……に、するんですか、」

訳が分からないおぼろ気な頭で目の前の男を睨み付ければそいつはさも面白そうににやりと笑う。
また、ぞくっと背筋が凍った。

「何かって?分かるだろう?今やったことも、今からやろうとすることも、」
「訳、分かんない、です……」
「あれ?おかしいなぁ。君はそれが理解出来ない頭しゃない筈なんだけど」
「そんなの嫌、ですってば……!」
「あ、なんだ理解はしてるんだ。じゃあ何が訳分からないんだい?」
「その、行為をする理由、です。貴方が何を思ってそうするのか全然分かりません」
「……さっき言ったろ?君がどんな反応をするか気になるってね」
「――観察、ですか」
「嫌な言い方するね」
「僕、は、気のない人とするその行為に意味があるとは思えません、だから」
「愛してるよ」
「え、」
「俺は君を愛してる。愛してるよ帝人くん」
「……」
「だからいろんな君を見たい。それじゃダメかい?」
「……貴方はまるで息をするように嘘をつくんですね」
「!」
「僕、貴方のそういうとこ、嫌いです。」
「〜〜っ、ハハハハハハ!」
「な……?」
「くくく、流石だよ帝人くん。でも俺は君のそんなところが好きだよ。ふふ、君の魅力は尽きないねぇ」
「はぁ……?」

君は俺のさっきの言葉を嘘だと言ったけど半分は本当なんだよ。……きっと気付いてないだろうけど。
まあ、俺はそんな鈍いところがある君という人間を愛しているし、尊敬もしている。

「じゃあそんな君にひとつ聞きたいんだけどさ――……」

――ねぇ、君は神を、理想像を空から真っ逆さまに落としたいとは思ったことはあるかい?

俺はあるよ。そう、今だ。理想を崇めたいと思う反面、その理想を自分のものにしたいという矛盾。
独占欲とでも言うんだろうな、これは。


――うん、どうしようかな。



▼ 11巻のイケイケドンドンだった臨也さん妄想。
あそこからイザイザにとってみかぷーが特別になるんですね分かります。
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