何処まで行っても平行線
俺は小さくて可愛いものが好きだ。
不意に現れた一個上のプロデューサーの先輩とか、三年なのに俺より小さい先輩とか、ござるござる言ってる同級生とか、そういうのにちょっと憧れている。
……だからこの状況は全く不本意である。
時刻は朝の6:30。なんでこんな朝っぱらから俺くらいデカくて熱血で、かわいいところなど何処にもない、そんなのがうちの前にいるのか。

「おはよう高峯!!」

ただでさえ大きな声なのに早朝の住宅街ということもあってか、先輩の声がいつもより響く。
恥ずかしい。あぁ死にたくなってきた。

「なんでいるんですか守沢先輩……!今日はちゃんと朝練行くって言ったじゃないっすか……」
「お前はそうは言ってもサボる時があるからな!迎えに来てやったぞ☆」

さあ、今日もまた鬱だ。

朝練と言っても動き回るから朝練が終わる頃にはもう目が覚めてくるんだけど、如何せんやりはじめは体も重いし、眠いままだ。誰だって守沢先輩みたいなわけないから、しょうがない。
それでも頑張るしか、ないし。



「……高峯!」


守沢先輩の声が聞こえたと思った瞬間衝撃的に目の前に星が飛んだ。
――クリティカルヒット。
まさか自分がこんな漫画みたいなヘマするとは。
死にたい。



* * *


「――あれ……?」

目が覚めると知らない白い天井。つ、と視線を流せば白いカーテン。若干の薬品の匂いもするから、ここは保健室、だろうか。
なんでここに。
少し起き上がって視線を戻せば傍らにはあの暑苦しい先輩がいて、そして寝ている。謎。

(――多分、先輩がここまで運んでくれたんスかね……)
(ほんと、黙ってればカッコイイのになあ……)

風に靡く赤茶のその髪を撫でようとして、不意に我に返り慌てて手を引っ込めた。
俺、今何しようとした……!?
そしてちょうどその時引かれたカーテンに大袈裟に体が跳ねた。
そ、そりゃ保健室なんだから保健の先生はいますよね!
「おー目が覚めたか。守沢のやつの球を頭に受けたんだってな?大丈夫か?」
「はぁ……」
「あいつはほんとに考えなしっつぅか……お前もあいつに付き合わされて大変だよなぁ」
「ええと、いつものことですし……」
「はは。言われてら。おら、守沢。起きろ」

ぺしん、と先生が傍らの先輩の頭を叩いた。ちょっと痛そう。
……まだ頭が微妙にぐらぐらするから先輩の大声聞くとまた頭痛くなりそうだな……。

「あ、先生、わざわざ起こさなくても大丈夫です」
「ん?でもお前動けないだろ?」
「いいんです、今先輩の声聞くのは、ちょっと」
「ああ成程……まぁ、お前がいいならいいや。俺はちょっと職員室のほう行ってくるからもう少し寝てていいぞ」
「はい。ありがとうございます」

ぴしゃん、扉の閉まる音を聞いて改めて先輩に向き直る。
……先輩はどうしてやたらに俺なんかに構うのか。先輩に対して憎まれ口叩くし?やる気もないし?同じ一年なら鉄虎くんや仙石くんの方が素直だし、かわいいんじゃないか。

(やべぇ。自分でやっててあれだけど、本当に可愛くない後輩だな……)

いや、別に先輩に可愛がられたいわけでは無いけど。

先輩は俺と正反対のひとだ。
太陽のように明るく、燃える炎のように暑苦しい。リーダー気質ってヤツ。体ばっかりデカくて自信が持てない俺にはあの底抜けの明るさは少しばかり、眩しすぎる。

(――あまり、照らさないで欲しいんだけどな)

小さい独り言は白い教室に落ちる。
それに反応したのかどうか知らないが、先輩の眉が顰められた。
それを何も考えずに見ていたものだから、ぱかりと開いた目と目がかしゃりと合って、一瞬声が出なかった。

「あぁ高峯、起きていたのか……」
「ぁ、はい、つい先ほど」
「おおっとスマン!これでは高峯が起き上がれないな!」

はっはっはっと先輩が笑って起き上がり、小さく伸びをした。
寝起き?なのに元気だな。
じとり、と見ると俺の視線に気がついたらしい先輩が少しだけ声を潜めて声を出す。

「……ぶつけた所、大丈夫だったか?」
「あ、はい」
「いつものように投げたつもりだったが、まだぼんやりしていたようだな…朝ということを失念していた。すまん。」
「いえ、別に……」
「ん?どうした?まだ痛むか?」
「……守沢先輩って小さい声出せたんすね……」
「おい!」
「そういえば。もしかして保健室に運んでくれたのって、」
「ああ!俺だ!」
「あ、スミマセン。重かったッスよね、俺デカいし」
「いや、全然!高峯を気絶させたのは俺だしな!部長として当然だ」
「スミマセンでした……」
「気にしなくてもいいぞ高峯……☆それで、どうする?まだ痛むのなら寝ているか?それとも授業に戻るか?」

じっと見つめられてわけもなくどきりとしてしまった。先輩の、この目線を合わせてくる話し方が俺は苦手だ。

「ぁ、えっと、そ、そうっスね……?」
「ん?どうした?顔が赤いな?熱も出ているのか」

ぐ、とさらに顔が近づいて目の前がひっくり返る。
明星先輩やプロデューサーの先輩にぽいぽい抱きついてるのを良く見るけど、なんでこの人はこんなに距離感ゼロなんだよ!
その顔をこれ以上近づけたくなくて、訳もわからず拒否の念を出そうとしたら思ったより大きな声が出た。

「いや、平気ッス!せ、先輩も教室戻らないとまずいんじゃないッスかね!」
「おお、珍しくでかい声を出したな高峯!しかし病人を放置する訳にもいかんだろ?我が愛しき後輩かつ流星グリーンに傷がつくのは耐えられんからな!」

俺の混乱を気にせずいつものようにはっはっはっと笑った。助かったけど、拍子抜けというか、なんというか。さっきの上がった体温が馬鹿みたいで逆に冷静になってきた。そうだ、先輩はこういう人ですよね。

「アーソッスネー」
「高峯、お前話聞いてないだろ」
「ソッスネー」
「ぐっ……。ま、まあその憎まれ口があれば大丈夫だろう」

ぐしゃぐしゃと髪を撫でられて訳もわからずまた鼓動が早くなった。
本当に俺はどうしてしまったんだ。
かわいくもない。小さくもない。ゆるキャラを着てくれてる訳でもない。
この高揚はいったいなんなのだろうか。





どこまでいっても水平線













(誰も気づかない胸裏)


***
ストガチャに影響された結果。
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