混乱シャイニィデイ
タッタッタッと自身の長いコンパスを忙しなく動かしながら軽快に走る鮮やかな黄色。彼が急いでいるのはもちろん愛しのあの子に会うためだ。ただでさえ他校なのだから会える時間は限られているし、自分も相手もやらなければならないことは数え切れないほどある。だからこそ会える時間はできるだけ長く、濃密にしたいのだ。
目的地、誠凛高校体育館の入口に立った彼は開口一番、

「黒子っちいるッスか!!」

そう叫んだ。
誠凛高校は絶賛テスト期間でその体育館に居るのはまばらだったが(テスト期間中、部活動は停止するが、気を紛らわる為などで体育館に来ることは可能)その中にいた誰もがまたかと肩を落とす。

「うげ、出た……」
「うげって酷いッスね、火神っち……ってアレー?黒子っちは?」
「……あいつはテストべんきょーするって先帰ったけど……、つうか火神っちって呼ぶな」
「火神っちが置いてけぼりって珍しいッスねぇ」
「聞いちゃいねえし……」
「火神っちは黒子っちの向かった場所って分かるッスか?」
「あー……市立図書館行くとか言ってた気がするけど、場所が場所だし、迷惑かけんな…っていねえし!?」

ったく、キセキの世代ってのはなんでこう黒子に対してこんなに過保護っていうか……。ちょっと執着しすぎて……引くわー。
最近霧崎第一の花宮もちょっかい出してるみたいだし(今のところ何もされてないようだし、黒子は平気そうだが)バスケ界の問題児ばかりに構われて黒子は大丈夫なんだろうか……。


***


「――…花宮さん、これってどう解くんですか?」
「あ?こんなのも分かんねえのかよ」
「いいから教えろください」
「ちっ……、あのな、この問題はコレ使うんじゃなくてこっちの公式を当てはめんだよ」
「え、こっちですか?」
「そうそう。で、こいつにそのままぶち込めば式ができる。こっからは解けるか?」
「やってみます……」
「……オイ、計算間違ってんぞ」
「暗算……だと……!?」
「まじでそういうのいいから」
「やだぁ、真さんもっと優しくしてください……ッ!」
「お前ほんとに――、あーもう……」

花宮さんは大袈裟にため息をつくと頭を抱えた。あれ、やり過ぎた?でもこの前はボクだってダメージを受けたんだ。おあいこだろう。先に揶揄ったのはあっちですし、ボクに非は無い筈ですよね!

「――テーツヤ、ちゃんとできたらご褒美やるから頑張ろう、な?」

こうかは ばつぐんだ !
ぞぞぞぞぞぞっ!!!何やら悪寒が爪先から頭の先まで全速力で掛け登ってきた!なんですかこの鳥肌!!悪意100%の花宮さんの笑顔!なにこれ超怖い!!
ほんと黒子テツヤのライフを三分の一くらい削りとって行きましたよ猫かぶり花宮真(+イケボ)。こいつぁなかなか強敵だぜ……。

「……ハナミヤさんまじ怖いっすわー」
「これに懲りたらこれ以上ふざけるなよ?」
「御意」
「だから……まぁいいや。オラ、次は分かるのか?」
「いいえ。」
「即答だな……」
「どの公式を使うとか、そういうのはどうやって見分ければいいんですか?」
「解き方のヒントはだいたい問題文に載ってんだよ。問題文にこの単語があって、且つ図にココの角度が表記してあるやつとか、表記されてる角度がココとココしかなくて、この角度を求めろって出ればこの定理な、この定理は理解してるか?」
「一応は。」
「一応じゃなくて完璧に覚えろ、この単元は基本が出来てないと死ぬぞ?」
「うぇーい…」
「…お前本当に理数科目ダメな」
「平均は取れてます!」
「自慢になってない」
「うう、テストの時だけ花宮さんの脳が欲しいです……」
「…………まあ、お前の考えてること分かるなら脳ごと移植してもいいけど」
「えっ、急に生々しくなりました」
「あ?俺の脳欲しいって言ったのてめえだろ」
「そういう意味じゃないです、間に受けないで下さいよ」
「俺の脳は俺に都合のいいように受け取るんでね」
「え、それって――」
「黒子っち!」
「「!?」」

どういうこと、と聞き返そうとしたその矢先、割って入った謎の第三者の声。
この独特な呼び方には聞き覚えがある、が、記憶によれば彼は図書館へ来るような人では無いはずだが。

「黄瀬くん」
「探したッスよ、もー!黒子っちどこにもいないから……!!」
「……黄瀬くん、きみはここが何処だか分かりますか?」
「ハイッス!」
「ここは、一体、何をするところですか?」
「本を読むところッスよね!」
「……分かるなら黙るか出ていって下さいここは静かにしなきゃいけないところですよ!」
「きゃいんっ」
「あーあ、――だーからいつも犬の躾はしっかりしろって言ってんだろーが」
「すみません、いつまで経っても親離れができないみたいで」
「そろそろ独り立ちさせろよ」
「分かってますよ」
「ちょ、ちょっと何ナチュラルに犬扱いしてるんスか!黒子っちはまあいいとして花宮真に馬鹿にされるのは気にいらないッス!」
「なんだよマナーも何もねえな?呼び捨てとか舐めてんのかよ」
「すみません、色々と恵まれすぎてたせいで調子乗ってるんです」
「ああナルホドそりゃ可哀想に」
「なんなんスかさっきから!もー!黒子っちってば悪童の巧妙な手口で悪に染められて…っ!黒子っちはついに堕天使になっちゃったんスか!…はっ、でも性格悪い黒子っちもありかも…?
黒子っちに罵られたら俺は…っ!俺はぁっ!」
「何言ってんだこいつ。花宮さん大変です、ついに黄瀬くんの言語がわからなくなりました」
「お前の絶対零度の真顔ってなかなか怖えな。……まァ安心しろ俺も意味が分からない」
「花宮センパイの天才的な頭脳で翻訳してくれません?」
「いやいくら俺が頭いいっつっても宇宙人語は流石に分かんねえや」
「ちぇっ、使えないですね」
「お前何様!?」
「その無駄にいい頭と無駄に達者な口をフル回転させて下さいよセンパイ?」
「こんな時だけセンパイって呼びやがって……だいたいお前さ…「ストップストップストップなんなんスかその夫婦漫才みたいなの!俺だって黒子っちと……!」

黄瀬が口を開こうとしたその瞬間、どすんと目の前に置かれた分厚い百科事典。そしてにっこりと笑う図書館員のお姉さん。
何故か少しだけ寒くなった。

「……図書館ではお静かに。」
「「「はい、」」」
「もし騒ぐのなら外でやって下さいな」


***

ぽいぽいっと図書館外にあっさりと追い出されて呆然と太陽を見つめる。さんさんと輝く太陽に愚痴をこぼしてしまうのは仕方のないことだろう。

「……まーじありえねえ」
「ボクら勉強してただけなのにホントに何してくれてるんですか」
「ごめんなさいッス……!」
「はぁ……罰としてそこのコンビニでアイス買ってきて下さい。ボクと花宮さんの分」
「ええ!?」
「さっさと行く!!」
「そんなー!!」

何やら喚きながら駆け出していく黄瀬を見送り、再び静かな空間が訪れる。

「俺、甘いもん嫌いなんだけど?」
「あれ、そうなんですか?でもチョコレート好きですよね?」
「カカオ100%のやつなら」
「カカオ100%ってそれチョコレートじゃないですよ!ただのカカオマスですよ!」
「そういうお前はバニラシェイクとかクソ甘いの好きだよな」
「貴様、バニラシェイクを馬鹿にしたな…?」
「なあ唐突に出てくるお前のそのキャラはなんなの」
「やだなあ遊び心ですよ」
「ふざけすぎ…ってなんだアイツもう出てきたけど」

先ほど駆け出したモデルだったが、コンビニに入ったと思ったらすぐ出てきて少し離れたこちらを見て何かを叫んでいた。大袈裟に手もぶんぶんと振り回している。

「黒子っちー!なにが食べたいんスかー!」

案の定彼がおごる相手に花宮は含まれていない。もちろん要望を聞くのは黒子のみである。
「……なんつうか恥ずかしい奴だな」
「返す言葉もありません…」
「ハー●ンダッツって言っとけ」
「分かりました…って花宮さんもう帰っちゃうんですか?」
「おお。つーかアイツはお前しか見てねえみたいだし、同類だと思われたくねえ。じゃーな」
「えっ、ええええ!?ちょ、まって下さいよ…!」
「んだよ」

黒子が花宮を追いかけようとするも後ろから相も変わらず黒子を呼ぶ声がする。黄瀬くんはうるさい。
黒子がヤケになりつつ「ハー●ンダッツ2個買っといてください!バニラで!」と注文すれば黄瀬は大人しく店内へ消えた。
黒子の呼びかけに花宮は足を止めている。
はやくなにか言わなければ。
勢いで止めてしまっただけなので何か言おうとしても音として単語がでてこない。

「えっとですね、その、なんていうか、あれですよあれ……あっ帰るのは止めないですけど!」
「さっさと言え」
「き、今日の勉強は災難だったんで、あの…埋め合わせというか、なんていうか」
「あァ、そういう……」
「花宮さんが暇でしょうがないっていうなら数学、教えて欲しいんですけど!」

よっしゃ言ったぞ!
これで思い残すことは何もないことはないけど成し遂げました!普段誰かに頼らせて貰うことがないからこういうときはわけもなく緊張してしまう。
そして花宮さんは何も答えない。いや、何か言ってください花宮さん。この謎の間がつらいんです。
そうしてしばし考えた後、かの人はとんでもないことを言い出すのであった。


「……じゃあウチ来るか」


「……えっ」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -