哀惜ミッドナイト

教師なんてものは成績がそれなりによくて、特に目立つ問題を起こさなければ勝手に己を買ってくれる。そして学校の宣伝力にもなる頭脳を持つ花宮であれば小さな問題くらいならばなかったことにしてくれるような都合のいい存在であった。花宮真はその点を踏まえても知識だけでなく知恵も弁えている単純によく頭の回る「優等生」であった。
バスケにしたって花宮にとってチームメイトという存在は仲間とも同志とも違い、あえていうならば利害が一致しているその1点で点繋がっているといっていい。それに対して友情を育むだとかそういうこともなかったし、だからこそ、ぶつかりあったり、裏切るなんて問題は起こらない、ある意味での信頼で結ばれたものであった。
よく回る頭で考える。ゲームの進め方、相手の動きへの対策、チームの動き。そして、「偶然」起きる「事故」について。自分の考えるように指示を出すだけだ。自分も含め、それぞれ勝つための駒でしかない。
だからこそ己に近づいてくるものは頭脳を買った教師であるとか、そういうのを手元に持つこと自体に自分の価値を見出そうとしている女であるとか、それに嫉妬した男だとか十人十色様々であったが花宮自身に関心を示すものなど少なかったのだ。
何かしようと思えばそれなりに出来たし、それに対して努力するなんて馬鹿みたいだと思っていた。何かに純粋に向き合うことはとうに忘れてしまった。
純粋な友情や努力。それを盾に立ちはだかるものも大嫌いだった。
逆にいえばそういう努力をしてきたものを自分の手でへし折ってやることにいつしか楽しみを見出すようになっていた。悪童と呼ばれるようになったのはいつだったか。


そう。それこそ純粋をそのまま具現化したような人物が何故か目の前にいて。その揺れる水色は一心不乱に課題をこなしている。
内心なんでこんなのも解けないんだと思いながら。

「……黒子クンはまだ課題が終わらないんですかぁ?」
「もうちょっとで解けそうなんで話しかけないで下さい」
「あぁ!?誰のために俺様がわざわざ高1の数学教えてやったと思ってんだ」
「あ、その点については感謝しています。ありがとうございます。」

ノートに向かっていた水色が不意に顔をあげてはにかむ。予想外にしっかりと感謝の意を述べられて言葉に詰まった。そんな花宮に気にせずその水色は再びノートに戻った。本当に調子が狂う。図々しいかと思えば素直だし。
そのつむじを見ていると悪い考えが浮かんでいく。俺を信頼しきっているその頭。そして幸いにもベンキョウカイをしている会場はここ、そう、俺の部屋だ。
課題が終わって一息ついたところを見計らって少しだけ近づくと、ぎしりと床が鳴く。その音に気づいてこちらを見た水色はぱちくりと瞬いた。そして何か察したのかじりりと後ずさるも可哀想にここは俺の部屋。こいつが来たいと言って来た部屋だ。
もちろん逃げ道などは用意していない。当たり前。

「なぁ、俺んちに来たいって言ったのはお前だよなぁ?」
「花宮、さん……?」
「たかだか本の貸し借りだけでこの俺を信頼するなんて甘いんじゃねぇの?」

出会ってからそんなに時間は経っていない。俺もこいつのことなんて好きな本の種類くらいしか知らないし、こいつだって俺のことを知らないだろう。だからこんなことがあってもしょうがないよなあ?
状況に追いつけていないであろう本人を放置して、バスケをやってる割に細くて白い腕を掴んだ。
油断していたそれはあっさり俺の手に捕まって、また水色が瞬く。
それに意図せず口角が上がったのが分かった。

(こいつはきっと誠凛のやつにも、あのキセキの奴らにも、そしていくつかの対戦校からも信頼されてるんだろうなァ……。)

(そういう純粋な存在を底辺まで落っことすのって最高に楽しくて仕方ないよなあ!)

さあ早く裏切られたって嘆いてくれよ。
誠凛も、キセキも、こいつの相棒も、そしてこいつ自身も。俺を過剰に信頼したことが悪いんだよ。バァカ。





「……ざまぁみろ」





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