Mermaid drop
(バブルマンとスプラッシュウーマン)



「人間を助けるとみんなが言うのよ、人魚姫に助けられるなんて夢みたいだって。あなた、人魚姫ってお伽話知ってる?」
「大雑把な知識程度なら」
「あれって本当に良い話だと思う?」
「さぁてね。あれは人間が作った話だから、ボクはなんにも言えないよ」

その答えを知ってか知らずか彼女は語りだす。水上救助用メカニロイド。それの人魚に相似した彼女の言葉は本当の人魚姫の代弁となっているのかもしれない。

「そうよね。あれは人間にとって優しくて素敵な話なんでしょうね。
でもお伽話で王子様と結ばれないって珍しいのよ?
人間のお姫様は王子様と結ばれるのに、人間じゃないお姫様は一人寂しく死んでいく、なんて酷い話だわ。
だから私は恋をするなら同じ種族のひとがいいわ、お互いに好きなのに結ばれないなんて辛すぎるもの」
「きみは、水の中が嫌いなのかい?」
「いいえ、大好きよ。海はいいわ。イルカたちも魚たちもみんなかわいいわ。海は綺麗だし、私が歌うと魚たちが踊ってくれるし、何よりお兄様も楽しそうにしてくれるもの」
「飽きたりしない?」
「ええ。水の中は退屈なんてしないわ、でも……本当に偶に少し寂しくなる時はあるわね……」

そこで会話は一瞬途切れる。たゆたう波間にこぽこぽと泡が上っていった。
間もなく隣の彼女はふふと笑った。何かとそちらを見たら笑ったあとにわざと不貞腐れたような顔を作ったようだった。

「やだ、デリカシーのないひとね」
「何が?」
「こんなとき殿方は俺を頼ってとか言うべきなのよ?」

そうだ、もてる男というのはオンナコゴロを理解しなければいけないらしい。ちょっと前にクイックか誰だかがそんな雑誌を読んでいたような気がする。
女の子は自分の気持を察して欲しいんだとか何とか。自分には全く関係ないものだと思っていたが。

「…ああごめんごめん。じゃあ寂しくなったらボクを呼んだらいい。話し相手くらいにはなると思うよ」
「あら、ありがとう。まさか乗ってくれるとは思わなかったわ!ふふ、あなたって優しいのね」





人魚の泪



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