you'll give nights

とある少年は街を歩いていた。足りなくなった夕飯の材料を買いに池袋の街へ出たのだった。日が落ちたにも関わらずネオンが道を明るく照らす街を少し急ぎ足で歩いてゆく。
ふと、どこか遠く、がしゃーんという音が響いた気がした。……いや、意外と近かったかもしれない。

ぼんやり考えながら歩けば途端、視界の隅に黒いファーコートが入ってくる。
そこで少年は悪い予感に苛まれつつ、視線をその黒へ移してみた。
そこで少年は悪い予感が当たったとため息をつく。
――少年はこんな格好の人を知っていた。最近よく会うということも。会ったら逃げられないということも。

「――ったくあの筋肉馬鹿……って帝人くん?帝人くんじゃないか、偶然だね?」
「……」
「どうしたの不細工になってるよ?あ、いや、なんていうか言葉のあやってやつだからね、帝人くんはいつも可愛いよ!それはもう食べちゃいたいくらい!」

少年――帝人は出会い頭ぺらぺら痛い言葉を吐き出すその男をやる気なさげにじと、と見た。
この男は自称素敵で無敵な情報屋、らしい。
僕はぶっちゃけるとこの人が苦手だ。ただ遠くから野次馬のごとく見ていただけなのに、何故かいきなり距離を縮めてきた。割と深いところまで。何度も言う。僕はこの男が苦手だ。
なるべく早く切り上げようと少年は口を開く。

「……ああ、最近臨也さんとよく会うな、と。はっ……貴方まさか僕がここにいるの知ってて偶然とか言いませんよね……!」
「何言ってんのさ。まあ仕掛けた盗聴器は気になるけど今日君に会ったのはまったくの偶然だよ!いやあまさか会えるなんてね!嬉しいなあ!」
「あれ今盗聴器って言った?ねえ言いましたよね?」

この人は勝手に僕の深いところまで割り込んできた、そう、物理的に。……はぁ。この年でストーカーにあおうとは。笑えない。
帝人がぎり、と睨み付ければさもおかしそうにふふ、と笑うこの男。女性なら誰もが振り向くであろう素敵な面をしているのに中身は素敵に変態である。
世界のバランスはおかしい。なんでこの人がモテるんだろう。理不尽、不公平だ。

「またその顔かい?なんだか今日は妙に噛み付くね?どうかしたの?」
「ああ……最近なにも信じられなくて、ですね」
「そりゃ大変だ。帝人くんも一人くらい信用できる人を作るべきだよ」
「……それをあなたが言いますか」
「ハハッ確かに説得力無いよねえ?」

彼が笑うとそれに重なって遠くで何かの倒れる音と叫ぶ声が聞こえた。
それをじっと聞いていた臨也は小さく舌打ちをして帝人へと向き直る。

「――帝人くん君と話したいのは山々なんだけどアイアンゴーレムが近いんだよね、ちょっと違う所に移動したいんだけど」
「いや、あの僕もういいんで……」
「匂いとかわかるらしいしー」
「スルースキルぱないですね……はぁ、あなた方は毎回お忙しいですね」
「帝人くんもアレに追い掛けられてみな?どれだけ無駄な運動か分かるよ」
「静雄さんから逃げられる気がしませんよ……まぁそう考えると臨也さんってすごいですよね」
「おっと?可哀想って思った?優しく抱き締めてくれてもいいよ?」
「寝言は寝て言えハゲ」
「帝人くんの口から今すごいの聞こえた気がするけど聞こえなかったことにするよ」

臨也は帝人の言葉を軽くスルーすると誰に言うでもなく、遠くを見て忌々しげに呟いた。

「――シズちゃんってなんで生きてるのかなぁ。ずっと刑務所にいればいいのに。ついでに暴れて死んでくれたら最高。……だいたいさぁ、いつの間に帝人くんと仲良くなってんの?なんで?帝人くんは俺が一番に見つけたってのにさぁ?……むかつくよねえ」
「……臨也さんって人間好きなんじゃないんですか?」
「はっ、アレが人間だって?君には人間に見えるわけ?アレは人間じゃないよ、人間離れした化け物だ。」
「はぁ…?あなたの基準はよく分かりません」
「帝人くんもいつか分かるよ、アレの化け物加減がさ」

そこで臨也はちらりと帝人を見た。
ああそうそう園原杏里だっけ?俺はあの子もどうかと思うね。
罪歌だかなんだか知らないけど人間を愛してるだって?
人間だけじゃ飽き足らず君を、帝人くんを盗ろうなんてね。馬鹿言うなよ。
彼の脳内にいるであろう刀の少女、化け物共を殺さんばかりに睨み付け、毒を吐き出せばそれが思わず口に出ていたらしい。

「……何か言いました?」
「……いいや?とりあえず帝人くん家にでも行こうかと」
「嫌ですよ」
「まぁまぁ。シズちゃんも人の家まで入ってこないだろうし、人助けだと思ってさ」
「えー?」


そうして器用に言葉を誤魔化しながら、下手くそに感情を誤魔化しながら、帝人の背中を押して臨也は笑った。


――人間も、君も。

――化け物なんかに渡してたまるかよ。




ゆるぎない




▼ 臨也さんはなんであそこまでシズちゃんや杏里ちゃんを嫌ってるか妄想。11巻からの妄想が止まりません…!
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