カリカリとシャーペンを滑らせる教室内。
クラス内にはもちろん私語をするものもおらず、皆淡々と第一外国語と言われる異国語の授業をこなす。
が、学生にとってなかなかに長い授業時間、受験生でもない限りそこまで真面目に授業を受ける学生もいない。
もちろん真面目にきっちりと授業を受け先生の言葉を書き取るという、学生の本分を限りなく全うしている学生もいることを忘れてはいけない。というより学生の真の姿がソレであることを忘れてはいけない。

が、しかしやはり遊びたい、はっちゃけたい盛りの高校生がじっと同じ場所に座り何をするでもなく授業を聞くというつまらぬ時間、いくら将来必要になるかもしれないからと言ってそう簡単に集中出来るはずもなく。
それがお昼を過ぎた日当たりのいい午後の授業、さらに天敵と言ってもいい程に受け付けることが出来ないとりあえず爆発してしまえと常に思うような教科ならば尚更である。



「なぁ政宗、俺は思うんだ。何で日本には英語という物が入って来たのだろう、というより英語って誰が日本に持って来たペリーか、黒船なんてちょ、格好よくね?的な船でやってきたペリーさんか、だから俺たちは今現在としてこんな記号のような変なものを永遠と頭にぶち込まれているのか」

「……」

「なぁ、何で俺こんなことしてんの。てか何この文章いったい何に使うの、『ディス イズ ア ペン』?『これはペンです』なんて分かってんだよ何でこんなこと言うの、英会話でんなこと言うと思ってんの?バカなの?アホなの?とりあえず英語爆発しろ…!」

「黙れ中二うるせぇ」

「ちょっ、政宗クン酷い!!」

「酷いっじゃねぇよっ今授業中なんだよ黙れ!」



クワッともとより目付きの悪い隻眼を見開き睨む。
隣でブツブツと呪文のような言葉を呟き続けていた男子生徒、女の子のようなポンポンのついた髪ゴムをつけている名前がうぐっと眉を八の字に下げ政宗の睨みに心外だとでもいうように体をびくつかせる。



「何何この子何でキレてんの!?今時理由無き反抗!?名前困っちゃうじゃない!」

「Shut up!んだそのキャラうぜぇ!」

「ああああもう俺日本から出ないよっ例え未来の日本をこんなヤクザみたいな奴が率いるとしても俺もう絶対日本から出ないもんねっ英語なんてしないもんねっ」

「オイどういう意味だソレ。はぁ…ったくよ…。てか名前、今誰の授業時間かわかって…」

「何で俺この時代に生まれたのかしら、てかねぇ聞いてよ。俺小学校からやってる英語よりも最近始めた中国語の方が点数よかったの、どういうことかな、やっぱり俺英語合わないんだよねきっと。だってそうじゃないと虚し過ぎるよ色々とさ、もう本当英語日本に入れた奴前でろ前ブフォッ!!!」

「………、Ahー…」



遅かったか、と呟く政宗をよそに生徒…名前が机に突っ伏しああぁぁ…と声にならない声を上げる姿にクラス内の生徒たちはまたか、とこのクラスになってからある意味見慣れた様子に生暖かいような何とも言えないような目を向ける。
頭にブシュウゥゥというような大きなタンコブを作り悶えている名前の後ろには片手に教科書を丸め青筋を浮かばせたヤク…コホン、鬼が。
そんな鬼…もといヤクザのような容姿の教師、片倉小十郎は涙を溜めてぐ、グスなんて言い出す名前にはぁと息をついた。



「か、がだぐらぜんぜぇー…!っぼ、暴力反対なんだから、な…!グスっ」

「うっせぇ、いい加減英語位真面目に聞け」

「な、何で俺だげぇぇー!グス、ぶぇ、贔屓だっ」

「政宗様は迷惑なされていたからな」

「Oh、Niceだ小十郎」

「うぐ、ぶぇ、ひ、贔屓だ!完全なる贔屓だ!!」



そして政宗酷い!グスっ!とイジイジしだした名前に小十郎ははぁとまた一つため息をはくと今度は真面目に聞けと言い前へと戻って行く。
ちなみに名前や政宗がいる場所は日当たりのいい窓際の後列。まだ寝ていないだけでもマシであろう、寝ている者たちの頭を名前と同様軽く丸めた教科書で叩きながら小十郎は歩を進める。



「ぢくじょー…小十郎さん政宗大好き過ぎだろぉ」

「おい変な言い方すんじゃねぇよ」

「そうそう、てか名前ちゃんも懲りないねぇ」



俺様噴き出しそうになっちゃった、と言い出す斜め向かいの席の友人、猿飛佐助が肘をつきその派手な髪を弄りながらクックッと肩を揺らす。



「え、何ソレむかつくぞ。温厚で有名な名前さんでもムカつくぞ、何故なら名前さん超真面目だったから!」

「An?あれがかよ」

「ぷ、あれでー?」

「あれ何だろう、政宗はいつものこととして佐助てめぇ超殴りたい。けっこのイケメンめ!」

「男の嫉妬は醜いよ名前ちゃん」



クク、と明らかに上から目線である佐助の様子に流石の名前もイラっとする。
政宗といえばそんな二人の会話を聞いても俺は関係ねぇオーラバリバリで黒板へと目を向けていた。



「そもそもさぁ、今時英語が出来ないのはいけないよ名前ちゃん、受験どうすんのさ」

「……英語ないとこ行くし」

「それでも!大学入ってからだって一般教養として英語するんだからね?」

「………」

「一生日本を出ないなんてそんなのわかんないでしょ、今やんなくていつやんのさ」

「………グス…」

「嫌だ嫌だなんて言ってても社会で通じるわけないでしょ、いい加減現実見て…」

「おい猿」

「は?何さ伊達ちゃん、俺様今名前ちゃんに話して…、あ…」

「……、Ahー…」



チラリ、と。
目を向ければ机にピッタリと懐き肩を震わせながら時折、グジュ、ぶぇ、ズズッなんて音を醸し出している名前の姿。
二人は高校生にもなって簡単に泣き出す名前にヒクリ、と頬を歪ます。が、今に始まったことではないこの様子。
あえて言おう、名前は究極の弱虫である。



「う、うわあああんっ!!」

「!」

「うわ!」


といきなり大きな声を上げた名前にクラス一同がビクリッと体を震わせ発信人である名前を凝視しあー…といったような顔になる。
もちろんそんな様子からしても名前が泣くという行為は決して珍しくないことであるようだ。



「が、がたぐらぜんぜぇぇー!」

「……、はぁ…、何だ」

「ざ、ざずけがぁぁ」

「?猿飛が?」

「は?俺様?」

「ざ、ざずけが…っ、政宗のこと大好きだって!」

「はぁ!?」



と、いきなり叫んだ名前の内容に一同がポカーンとし、何言ってんだコイツというような雰囲気になる。
政宗はもちろん、叫ばれた内容の当人である佐助も流石に素っ頓狂な声をだし呆れたような目で名前を見た。



「Wait、名前てめぇ何言ってんだ」

「そうだよ名前ちゃん、流石の片倉先生でもそんな言葉聞いてキレるなんてあるわけ…」

「猿飛ぃいい!!!」

「はぁっ!?え、ちょ、片倉センセ、マジかよ何そのチョークってうわわわわっへぶぁっ!!!」



放たれた大量のチョークと、驚異的な迄に早いそれを避けられなかった生徒。
そしてまさかあんなことで本当にキレる先生を呆気にとられた目で見ている涙目の生徒と、頭を抱え眉間に皺を作る生徒。


クラスメートは皆、この余りにも日常的で余りに非現実的な出来事に、ただ刻々と少なくなる授業時間を憂うのだった。




青春なんて言うけどね
はっちゃけ過ぎなんだよ君達




(…片倉先生本当に政宗のこと大好きだな…ぐす)
(……だな、ってコラ鼻水つけてんじゃねぇよ)
(ティッシュくれティッシュ…ずび)
(Ah?…おら)
(…何で箱?)



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