「…ひっ…ふっぅ…」



目の前にいる同い年の小さな女の子。

俺の手をその小さな手できゅ、と握って、もう一つの腕でその零れそうな大きな瞳から流れ落ちる大粒の涙を拭っている。

その袖の部分の布は彼女の流した水を吸い込んで変色していた。



「…名前…」

「‥ふ…、ご…め‥っヒック、ね…け、じ‥ひっ‥」



そしてまたボロボロと、小さな口から鳴咽を零しながらとまることを知らない涙を流す。


名前が、この目の前の少女が俺と初めて会ったのは遅刻しそうな日の学校の門前。

漫画よろしく派手にぶつかってお互い謝りたおしてたら本鈴の鐘がなって。

二人一緒に先生に怒られて、終わったあとどちらともなく笑って。


それから名前が年上の先輩に恋してるっていうから恋の相談にのりはじめた。

話しをするたびに名前の表情は毎回毎回幸せそうだったり、不安そうだったり。


あぁ、恋してるなぁって、俺も幸せになって。

そんな名前を見て、名前を知るようになって、俺が名前に恋をするのには時間がかからなかった。


でもその気持ちに気付いた時には名前はその先輩に告白して、付き合っていて。

名前の幸せそうな顔を見るたびに、俺があの顔を崩しちゃいけないなんて。

ならばせめて、1番にならなくても君の隣にいたいと想った。


けれど。



「ひっ…、ふっ…本、当に…好き、だっ…ヒック‥た、の‥」

「‥うん…」

「‥‥う、わきっ…ふ、‥され…て、る‥て‥ひっ‥わか、て、た…」

「‥‥うん‥」

「そ、それ、でも‥ふっ…ね‥」

「‥‥‥」

「ヒック…ふっ…い、しょ‥に‥っいた、か…た、の‥っ‥」



居たかったんだぁーって、途切れ途切れで誰もいない放課後の教室に二人、床に座りこんでいう名前は俯いているからかとても小さくて。

綺麗に梳かれた髪もぐちゃぐちゃになって、袖は濡れていない所なんてないくらいびちょびちょになって。

一回りも二回りも小さいその女の子がどうしようもなく愛しかった。



「…‥名前‥」



ゆっくりと目に押し付けられている腕をそこから離す。
俯く顔を見れば瞳は涙のせいで真っ赤になって、目元は腫れぼったくなっている。

俺はゆっくりと名前の顔を包み、目元の涙を拭う。

何て綺麗な涙だと想った。



「ヒック‥‥け、じ‥?」



まだ止まらない涙を零しながらも俺を見る名前にふわりと優しく優しく、安心できるように微笑む。



「あんま泣きすぎんなよ?目が溶けちまう」



そう言いながらも優しく目元を拭うと、名前は涙を流しながらも「溶けないよ」と微笑む。

じわり、と体が満たされる気がした。


繋がれた手を解いて頬を包んだ手を後ろに滑らせてその今にも壊れそうな体を優しく抱きしめる。



「け‥じ?‥ど、したの?」



ぱちくりと音のしそうな程目を見開いた名前の背を優しく叩く。

赤ん坊にするように、安心、するように。


それに気付いた名前は少し力の入っていた体の力を抜きゆっくりと俺の胸元に顔を埋める。

名前の体は女の子の中でも小さい方だから男の俺が抱き込めば尚更すっぽりと体を覆った。

そして、それと同時にやっぱり女の子なんだって。
男が守るべき、俺が守りたい子なんだって。

愛しくて愛しくてどうしようもなくて。


抱きしめる名前の髪に顔を埋めた。



「‥け、じは‥おっき‥ね‥」

「‥‥」

「安心、する‥」



トクントクンと少し早い胸に顔を埋める名前が鼻声で呟く。



「抱きしめてもらったことはあったよ‥けど、こんなに安心‥出来なかった‥」

「‥‥」

「私、けーじに恋、したかったなぁ‥そしたら‥」


そしたら…



「そしたら俺がずっと名前と一緒にいるよ。手ぇ繋いでデートして。ずっとずっと大切にしてやるよ」


「名前が」


「いつでも笑っていられるように」




そういって微笑んでくれた君に胸が締め付けられる気がした。






笑っておくれ 愛しい人



(今度君から流れる涙が)(幸せの涙であって欲しい‥)








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