初めてお会いしたとき、時が止まったような気がしました。

長く艶のある美しい黒髪。
雪のように白く紅がよく生える肌。
伏せられた切な気に細められる綺麗な瞳。

そして今にも崩れてしまいそうな、壊れてしまいそうな程儚く心を捕らえて離さないその雰囲気。


全てに目を奪われ、全てに心を奪われました。


あぁ、この方を守るのだと、この方のために生きて戦うのだと。

全てを捧げ、命をも捧げ、私は貴方を護ると誓いました。



「長政様…」



殿といられる貴女様は本当に幸せそうで。
二人がいられる場所までもがとても愛しかった。

普段見せない柔らかく、安心しきったような微笑みをお見せになる貴女様はとても眩しくて、殿もそんな貴女様に慌てながらも優しく微笑まれて。

こんな世でも、この人間が醜く争う世界でも貴女様達は私の…私達の希望だった。

光、だった…


眩しくて眩しくて、こんな時間が永遠に続けばいいと。

どうか幸せになって欲しいと。

あの儚げでそれでいて美しい微笑みを浮かべて欲しいと、願った…


なのにー―…



「長政様…長政様ぁ…っ」



なぜ、なぜなぜなぜ…

護ると誓ったのに、幸せになって欲しいと願ったのに、貴女は血にまみれてしまった。

壊れて、しまった…


こんな…、こんな姿が見たかったわけじゃなかった。

こんな見てるだけで胸が張り裂けそうな程哀しい表情をしてほしいわけではなかった…

ただ殿と幸せそうに、花が綻ぶように微笑む貴女様を見たかっただけなのに。



「長政様…どこ…どこに、いるの…?市は…ここだよ…長、政様…」



哀しい、哀しい…

心が、体が、全てが締め付けられるようだった。

それと同時に何も出来ない私が、ただ傍らで貴女様を、消えてしまいそうな程可憐な貴女様を見ていることしか出来ない自分が悔しくて、憎らしくて。

涙が零れた。



「皆…皆死んでいく…これも…市のせい…」



お市様、ねぇお市様

貴女様に涙は似合わない。
貴女様にこの戦場は過酷過ぎる。


ねぇお市様
私たちはこれからもずっと貴女様の側にいると誓いましょう。

脚をもがれようが、腕を斬られようが、目をいぬかれ、舌を抜かれ、たとえこの身が朽ち果てても、貴女様の側にいると誓いましょう。

貴女様のもとに帰ってくると誓いましょう。


殿ではない私達には貴女様の傷を癒すことは出来ないかもしれません。

それでも。


お市様、どうか生きて下さい。
殿がいないこの世は貴女様には辛いかもしれない。哀しいかもしれない。

けれど生きていれば必ずいいことはおこるから。

幸せになると信じていますから。


笑って下さい。

この世の悪に負けず生きて下さい。


貴女様にはー―…








貴女様には幸せになってほしいから



(許されるならもう一度、…そう、もう一度)(貴女様の微笑みを見たかった…)







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