『貴方は他の人とは違うんだから』


いつも、言われていた。

生まれてから、物心ついた時から、17歳の誕生日を迎えた今の今まで。
まるで私自身を縛る鎖みたいに紡がれてきたこの言葉を私は何回聞いたのだろう。

いつもいつも同い年の子たちが周りを友達に囲まれて遊んでいた時に私は一人、冷たい無機質な生命維持装置なんていうものに囲まれて。


皆がキラキラ透き通るような空の下を駆け回っているときにポツンと、白く広いくせに何もない箱のような部屋からそんな様子をただ見つめて。


羨ましいなぁって思った。
何度も何度も窓なんていう小さなキャンパスから変わらない景色を17年間。

その間に入院しては退院していく人を見てはいいなぁって思って。
先生や看護婦さんたちから花束を貰ってバイバイってされてる人みたいに、私も外に行きたいなぁって。

早く治ったら行けるのに、なんてありえるはずがないことにただひたすら憧れて。


外には何があるんだろう、何がいるんだろう。
普通の生活ってどんなことなのかな。
空を飛ぶゾウがいるって本当?
嘘をついたら鼻が長くなるって聞いたんだ。
子供だけが住んでいる夢の国もあるって言ってたもの。



憧れて、憧れて。

きっとそれを確かめるなんてこと、今の私に出来るはずがないってわかっているのに。

だって知らないから。
それが確かだって。本当にあるんだって。

確かめる方法も確かめられるだけの知識も、箱の中にいる私にはわからないし、持っていない。

だって私は実際に見たことも触ったことも感じたことも何一つとしてないのだから。


ずっとずっと、真っ白で寂しくて冷たい病室で、お母さんと先生と看護婦さんたちと一緒にいつ退院できるのかな?なんて話をするの。


分かってるのに。
私は一生、この部屋から出られないかもしれないって理解、しているのに。

お母さんが、先生が、看護婦さんが。

悲しそうに辛そうに、眉を寄せて泣きだしそうになりながらも笑うから。

私の言葉に無理矢理微笑んでもう少しで退院できるから、なんて辛そうにしながら言うもんだから。

笑う。
だから精一杯の笑顔で、心からの微笑みで皆に笑いかける。
そっか!楽しみだなぁなんて、残酷な言葉を、笑顔を、吐き続ける。


知ってるよ、皆が私のいない所で泣いてること。

知ってるよ、お母さんがどんどん痩せていってること。


それでも、私が不安にならないように一生懸命に微笑んで、お話をして。

私、知ってるんだよ、自分の病気が治らないことくらい。
生まれた時からの付き合いだもん。

その位、知って、るんだよ…。


ねぇ、お母さん、私はいい子だったのかな。


私、ずっとお母さんを泣かせてばかりだったんだよ。

何もお手伝い出来なくて、ご飯も一緒に食べたことないんだよ。


家で過ごしたこともないし、おはようってお母さんより先に言ったこともないんだ。

お帰りなさいや、いってらっしゃい、頂きますや、ご馳走様。

何一つお母さんに言ってあげてないし、してあげられてないんだよ。


ごめんね、ごめんね、お母さん。
こんな私でごめんなさい。

本当はもっともっとお母さんと一緒にいたいの。

病院の真っ白な個室の中じゃなくて、あの大きくて広い青空の下で、手をつないで歩きたいの。

買い物にもいって、食事をして、写真を撮って、いっぱい、いっぱい、思い出作りたいの。


春になったら桜を見ながらお花見もしてみたいの。
団子を食べるのも忘れないのよ。

夏になったら空に大きな“花火”っていう花が咲くんでしょう?
どのくらい大きいのかな、きっと綺麗なんだろうね。

秋になったら月でお餅を叩いてる兎さんを見ながらお月見をするの。
兎さんが月の何処に住んでるのか調べなきゃいけないもの。

冬になったら真っ白で寒い雪の中、手袋をしてマフラーをして鼻の頭を赤くして、大きな大きな雪だるまを二つ作るの。

お母さんと私の分で二つ。
隣合わせで手を繋いでてニッコリと幸せそうに笑っているのよ。


ねぇ、お母さん。
私お母さんとしたいこと、いっぱいあるのよ。

だからね、お願いお母さん、泣かないで。

ずっとずっと、いつもいつも笑っていて。

私お母さん大好きなのよ。
お母さんの笑った顔が何よりも嬉しくて、大切なのよ。


だから、だから、お母さん。

私が一眠りしたらきっとこんな病気も治ってるわ。

きっと、今までのことが嘘みたいに走り回れる気がするの。

だから待っててね。
私が起きるまで傍にいてね。

きっと、きっと。
約束、だから、ね――…



ピィー―――…



白くて、寒くて、冷たくて、優しい空間。

その窓辺には、今年初の雪がふわりと舞い降りた。

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