「だからな、謙信公は本当はWomanだったんだよ」

「父上はお母さんだったんですか?」

「あぁ、だがこの時代だ。領主がWomanなんてすぐに狙われちまうだろ?だから謙信公はManだって嘘ついていたんだよ」

「そんな、私知りませんでした…父上も大変だったんですね…」



なのに私、迷惑ばかりです…と布団の中で上半身をおこしうなだれる名前に政宗は内心軽く慌てる。

今日はエイプリルフールという南蛮の嘘をついて人をかついでも許されるという習慣の日。

南蛮好きの政宗もそんな日に習って名前でもわかるであろう嘘を言い、久しぶりの話しを楽しもうと小十郎に黙ったまま春日山を尋ねた。

基本床からでることがなく人の話しだけを頼りに想像を膨らませ生活している名前にどんなことならわかるか、と考えたとき思いついたのが名前の義父である謙信公のこと。

常日頃から一緒にいるであろう謙信公のことならすぐにでも嘘だとわかるだろう、と高をくくりいざ行かんと話題を切り出した。


初めの方こそ穏やかに会話をしていたものの、後に政宗は己がどれ程名前を甘く見ていたかと認識する。


名前は政宗の言うこと全てを真に受けあまつさえその話のせいで軽く落ち込んでしまった。

その小さな体をさらに小さくし、へにゃんといつも穏やかに緩められてる目元も幾分か下がりどことなく罪悪感を感じてしまう始末。



「Ahー…」



政宗はどうしたもんかと髪を掻き交ぜる。

出来ればこのままそのことを理由に自身の城に来ないかなんて考えていた身としてはなかなかに美味しい状況なのだがいかんせん、この少女のことだ。

「女である父上を残してはいけないですよ」なんて真剣に言ってくるのが目に見えている。


政宗はどうしたもんかと、布団に乗せられている名前の小さく白い手を優しく握り目を細めた。




「独眼竜!!」

「Ah?」



と、気の強そうな張りのある高い声が室内に響く。

その声にビクっと体を驚きに震わせた名前の頭を優しく撫でながら政宗は声の聞こえた背の方へと多少不機嫌になりながらも振り向く。


そんな政宗の態度に声の主、かすがはキッと政宗を睨みつけた。



「何故貴様が名前様の部屋にいるのだ!!」



というかその手を退けろっ!!名前様が汚れる!!と叫ぶかすがはそれでも、ここが名前の部屋だからか、名前自身がいるからか決して腰元のクナイには手を出そうとはしない。

もちろん政宗も名前にそんな危険な場面を見せたくないのか、いつも腰につけている6本の刀は名前から離して置いてある。



「An?未来の奥の部屋に入っちゃいけねぇなんて決まりはねぇだろ」

「お、奥…!?き、貴様!そんなこと絶対に許さない!!」

「Ha!お前が許さなくても勝手に連れていく、だからお前が何を言っても仕方ねぇんだよ、you see?」

「っ何を言って…!」




「それはこまりますね、どくがんりゅうよ」


「!!謙信様!」

「……チッ」



スラリと。
物音を一切としてたてず、気品溢れる姿形で現れたのはこの春日山城の城主である上杉謙信。

その姿にかすがは瞬時に頬を染め、反対に政宗は「嫌な奴がきやがった…」と不機嫌そうに眉間にシワをよせる。

そんな二人の様子に謙信はふっと目元を和らげた。



と、本来の部屋の主である愛娘の様子が普段とは違うことに気付き、どうしたのかと少々足早に歩を進める。

政宗は近付いてくる謙信にさらに顔をしかめ息をつくと、ほんの僅かその場所を避け端による。

謙信はそんな政宗に軽く目を向けふっと微笑むと、腰を名前の入る布団の横へと降ろし、その男性にしては白く細い手で名前の頬を優しく撫でる。

それがくすぐったかったのか名前は軽く身をよじり、口元を緩ませた。



「どうしました?」

「父上…ごめんなさい…」

「?なにがですか?」

「私、知らなかったの…父上がお母さんだったなんて…」

「…!なにを…」

「父上は本当はお母さんだけど、父上は領主でいっぱい狙われちゃうから父上をしてるんだって、伊達さんが…」



なのに、私迷惑ばっかりかけちゃって…と謙信の手を握る名前の言葉に、ピシリっと空気が凍る。

が、直後に聞こえたブチィッと何かがキレるような音に政宗軽くビクリっと体を震わせた。



「ー―…っ独眼竜ぅうううっ!!!」

「Wait!Wait!悪かったって!軽いJokeだ!」

「貴様名前様に何を言ってるんだ!!しかも謙信様をお、お、おん、女などと…っ!!」



表へ出ろでこのケダモノがぁっ!!!と顔を赤くし叫ぶかすがに政宗が煩そうに耳を手で塞ぐ。



謙信は名前の言葉に珍しく一瞬固まり目を見開くも、目の前で自身の手を握りながらだから、私ね、その…と言葉を紡ぐ可愛いらしく無防備過ぎる愛娘に謙信は困ったように、でも愛しいというように目元を緩ませる。

握られている手をこちらからも優しく握り返しコツン、と額と額をくっつければ名前はくすぐったそうに、でも嬉しそうに握る手に力をいれた。



「…そうですね、たしかにつかれることはたくさんあります」

「っ…や、ぱり…」

「でもだからといってあなたをめいわくだなんておもったことはいちどもありません」

「…ほんと…?」

「はい。…しんじられませんか?」

「ううん!そうじゃ、なくて…」

「…じゃあいっしょにゆあみをしましょうか」

「ゆあみ?」

「はい」



いっしょにはいってくれたらつかれなんてなくなります、と微笑む謙信にやっと名前の頬が緩みふわっとした穏やかな笑みへと変わる。


それを見て微笑みを深くした謙信がでは準備を頼んできましょう、と腰をあげ足を踏み出せばスッと行く手を阻む影。



「どうしましたどくがんりゅう」



ゆったりと、いつもと変わらぬ謙信の穏やかな言い方に政宗の頬がヒクッと引き攣る。



「あ、んた何言ってんだ…!未婚の女と一緒に湯浴みする奴が何処にいやがんだ…!」

「おや、いけませんか?」

「ったりめぇだろぉが!何馬鹿言ってやがる!」

「“おんな”…」

「!!っ…あんたまさか…!」

「ふふ…“はは”とむすめがともにはいってはいけないということはありませんよ?」



今度こそ政宗は頬をビキっと引き攣らせる。

謙信はただふふ…と微笑ましいというように口元を緩めているだけ。



「…っShit…!」



厄介な野郎だっと、政宗はただ苛々を隠そうとせず、髪をグシャっと不満そうに掻き乱した。




春、日だまりの中に君と







(ふふ…まだまだ…)
(あのこはたくせませんね)

(Shit!!)
(いつか絶対見返してやる…!)






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