「名前…」 ギシリと敷き詰められた畳が音を立て、その音に目を細めれば頭上にいる青年の長く色素の薄い髪が頬を掠める。 腹に跨がり自身の腕を抑えつけている青年の腕は小刻みに奮えており、まるで縋るようにして捕まれている様は、幼子が必死で何かを繋ぎとめようとするような。 そんな、弱々しさまで感じてしまう。 「松陽」 ポツリと。 静かに自身を押さえ付けている青年…松陽の名を呼べば、松陽はビクリと軽くその身を震わせるも退くことはしないらしく、普段は温和な表情を浮かべているその顔を無表情に保ち、掴んでいる腕に力をこめる。 そんな普段とは180度は違う松陽の態度に目を細めた。 「………らぃ…」 ギリッと腕を掴む力が強くなる。 「きらい…きらい嫌い嫌い嫌い嫌い…っ名前なんて…っ大ッ嫌いっ!!!」 「!」 子供たちに接するときとは違う、敬語以外の口調。 久しぶりに聞いたそれで紡がれたのは、はっきりと自身を拒絶する言葉で。 思わず髪によって顔の見えない松陽を凝視する。 荒く肩で息を繰り返す松陽に、いつからこんなことをその内に溜め込んでいたのだと。 そしてそんな松陽に気付かず、居心地がいいと居座っていた自身の身勝手さに心底不快感を覚える。 生まれたときより拒絶し、拒絶され。 生きるためにと怨みを背負いこんで生きていた自分。 なんともまぁ、情けない。 人の負の感情には敏感になっていたと思っていたのだけれど。 「……そうか…」 「…っ」 カタカタと奮える自身より年下の青年を横目に、起き上がろうと力を入れる。 が、松陽は何を思ってかあれ程までに拒絶した自身を離す気がないらしくさらに力をいれ抑えこむ。 そんな松陽に眉を寄せ離れろと口を開いた。 「しょ「やっぱ無理ぃいいいいいいっ!!!!!」…は?」 ガバッと勢いよくあげた松陽の顔は涙や鼻水なんていうものがボタボタと溢れており、その豹変様に思わずビクッと頬を引き攣らせる。 掴んでいた手を腕から胸元の着物に変えたあと、自身に乗っかかっているという体制はそのままぐずぐずとまるで幼子のように泣き出す松陽に、私は珍しく動くことが出来なかった。 「ご、ごめんなさいぃぃいい…ぐじゅっ…だ、だい、すきです…大好き寧ろ愛してます名前…ずびっ!」 「……は…?」 「き、今、日は、エープリル…フール、ぐじゅ…なので…、」 「………あぁ」 「で、でもやっ、やっぱり嘘でもき、嫌いなんて…!すみ、っません名前…」 うわぁああああっとまるで子泣きじじぃのごとくガバチョッと自身の上半身に抱き着いてくる松陽にはぁと思わず息をつく。 エープリルフール。 完全に忘れていたその存在をきっちりと覚え、尚且つ実行するものが果たして何人いることか。 相変わらず、変な所で相手を驚かすのがお好きらしい青年に目を細める。 尚も泣きながら肩口に顔を埋めわんわん泣いている松陽のお陰で私の着物は悲惨なことになっているのだろう。 あとで着替えなきゃなぁと締めつけられて苦しい肺に空気を送りこむ。 まぁとりあえずは。 「……私もお前が嫌いだ」 私の言葉を聞いてキョトンと泣き止む君に、ほんの少し、素直になってみようか。 あぁ、喧しい春が来た (っ名前!そ、それって…!) (早く退け) (名前っ!私も大好きです!愛してます!結婚しm) (下引きちぎるぞコラ) |