怖い夢を見た。いや、夢ではないのかもしれない。でもとても恐ろしい時間だったように思う。
いきなり現れた男性、いや女性かもしれない。もしくは翁、いや老婆だっただろうか。少年?少女?わからない、記憶が曖昧でちぐはぐでよく、わからない。
でもそんな記憶にとどめられないあの人、という人がとても恐ろしくてとても信じられないような非現実なことを語っていたことは覚えてる。

私はしがないその辺にいるような人間だった。性別は女。変てつもない人生と、ちょっと内気な性格、気弱な姿勢。特に目立つこともなく過ごしていた私という存在が、何が起こってか生きていた場所からいなくなって、所詮、死んでしまって。
何処かの世界に新たな命として転生したという事実。信じられないけれど信じたくなかったけれど、妙に落ちついた意識と一緒に世界を知って自分を認識して認めざるを得なくなって、泣くとか喚くとか以前にこれからどうなってしまうんだろうという漠然たる不安だけが自身を覆い隠していて。
それからそんな不安とほぼ同時にあの人のいっていた特典だとかなんとかの存在も思い、だして。

「(なんでこんなこと、に…)」

あの人のいっていた決められた人生、考えて主軸だけでもと作られた人生。本当にそれはもう何処のドラマかと言うようなものばかりで。思わず呆れ返ってしまうほどのベタベタな不幸な幼少期。
でも流石だと思ったのは、あの人が悲劇のヒロインだなんだと言っていたのはきっとこういうことだと思ってしまうほどに私の性格というか人格というものがその不幸な幼少期によってしっかりと再形成されてしまったということだろうか。

もともと気弱で内気な自分。ドラマで見るような周りがいう不幸な人生なんていうものを身をもって体験するなんて誰が思うだろう。
怖かった、恐ろしかった。既に自我があるゆえに、親に愛されて生きてきた記憶があるゆえに。
その経験は本当に恐ろしかったし、精神的な苦痛、所詮トラウマを植え付けられるにはピッタリの代物だったし、何よりも幼い体に同調する心が痛くて痛くて痛くて、とにかく怖くて。
自分の行動によって変わるかもと言われていたとしても、そんなことを考える余裕なんてないほどに目まぐるしく時間は流れていって。

あっという間に時間は過ぎてやっと体が中学生になり普通の生活が出来るかと思えば事件はおこり、あぁこれもきっと特典の影響なのかなとか変な悟りを抱いたような諦めの感情に支配されたままそれでも、心臓が破裂してしまいそうなほどに痛くて痛くて痛くて。
この世界では有名といわれる私立の進学校に入学していたもんだからあっという間に悪評だけが背鰭尾びれをつけて広がってしまい。

もうだめだと。疲れたと。ぐじぐじと人一倍惰弱な心臓が根をあげて、中学三年になる直前にとうとう引きこもりはじめて。
もう誰にも会いたくない何もしたくないいやだいやだお父さん、お母さんと会えるはずのない人たちの名前ばかりを呟き一つ覚えの人形のように涙をはらはらと、たった一人、不釣り合いなほどに大きな家の中で溢していた、そんなとき。

「事情は今話した通りです。あなたもE組の一員として暗殺任務を依頼します」

キリッとした真面目な表情で冗談まがいなことを口にする女性の言葉に。

「せんせいの、あんさつ…?」

聞いたことのある単語とくり貫かれた月に、あの人のいったこの世界の原作というものが始まりだしたのだと悟った。



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