アニタ side
『勝ってください、エクソシスト様!!』 『我らの分まで!!』 『進んでください!!!先へ!』 『我らの命を未来へつなげてください!!!』
拡声器から船員の願いをこめた叫びが流れる。それは、クロス様の好きな雨の音を掻き消すくらい、大きな声で。
『生き残った我らの仲間を守ってください………』 『生きて欲しいです!!』 『平和な…未来で我らの同志が少しでも生きて欲しい……っ』 『勝ってくださいエクソシスト様!!』
死へ対しての恐怖はださない。ただ、ただ生き残った仲間への想いを、平和なこれからを願って彼らは叫ぶ。その声に涙が頬をつたう。 残った船員は三人。彼らを乗せて生き残った彼女たちは小船に乗る。
「さ、アニタさんとマホジャさんも」
のばされたリナリーちゃんの手。それは細くて繊細な手で、とても戦場にたつ子とは思えない女の子の手だった。私はのばされた手をとらず、一つの小箱を渡す。
「これをあの子に……花火に渡しておいてくれるかしら?」 「え…っ」 「昔はね、あの子も髪が長かったのよ。久しぶりに会ったら短くて吃驚したわ」 「アニ、タさん……」
泣きそうな表情を浮かべるリナリーちゃんの髪を、私はそっと撫ぜる。
「髪…また伸ばしてね。二人とも、とても綺麗な黒髪なんだもの。戦争なんかに負けちゃダメよ?」
ゆっくりと、リナリーちゃんたちが乗った船が私たちから離れる。意味を理解した彼女の目からポロポロと大粒の涙が零れ落ちているのが、雨の中でもわかった。
「さようなら」 「アニタさんっ!!?え…そんな…!そんな…」
離れた船から伸ばされた手は、もう届かない。 死に対しての恐怖がないといえば、嘘になる。花火に覚悟は決めたといったけど、やはり怖いもの。それでも、心は不思議と落ち着いて穏やかだった。
ごめんなさい、花火。 貴女はこれを恐れて私を遠ざけてくれたのに、結局貴女が一番怯えていることになってしまったわ。それでも、これ以上傷つかないでほしいと思うの。貴女は私に救われたと言ったけど、私も貴女に救われたの。
「妓楼のなにがいけないの!」 「なにって……」 「妓楼の娘だからってアニタが薄汚いとか言われて大人に蔑まれる必要ないの!」 「アニタは綺麗だよ!」
昔は、妓楼である家も、母も嫌いだった。そのせいで偏見をもつ周りに軽蔑されたから。そんな私も妓楼に偏見をもっていた。でも、そんな私のために花火は必死に声をはりあげて怒ってくれた、私を綺麗といってくれた。最後には「妓楼は人を魅了しなきゃいけないから凄いんだよ!」と褒めてくれた。 私も、花火が大好きで大切だったわ。不器用で、優しい花火。誰よりも大切な人を失うのを恐れ、独りになることを怖がっていた儚い子。戦争に負けないで笑ってほしい。
クロス様…アニタは立派な女になれたでしょうか。 母が認めてくれるような女に私は……
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