狼娘物語 | ナノ



フォーはアレンの左腕の回復を手伝うためにあの場に残った。あとで僕に話があるらしいから、おそらくアジア支部の一番中心となる部屋、支部長室で待機することになった。そこは、昔みたころと比べれば備品が増えたり減ったりで変わっている部分もあったけど、根本的なところは変わってなくてどこか懐かしかった。そこに置かれていたソファーに腰をかける。ふかふかしていて気持ちよかった。フォーはいつ帰ってくるのかな。ぎゅっと狼我を抱きしめて顔をうずめる。
コトンッと、前にコップが置かれた。コップからは白い湯気がゆらゆらとうごめいている。なかには茶色と白色が混ざったような色の液体。甘い香りがする。きっとココアだと思う。ちらっと顔をあげてみれば、アジア支部の支部長《バク・チャン》がいた。「どうも」とお礼を言うだけで、手をつけることはしなかった。

「君が、フォーの言っていた子かい?」
「どこまで、聞いてるの?」

フォーのことだから、僕の過去とかまでは話していないと思う。でも、彼はエドガー博士とトゥイさんの息子だ。二人からアジア支部にいるあいだの僕については聞いているかもしれないし、支部長だからあのときの出来事だって知っているに違いない。じっと彼の顔を凝視する。目つきは母親譲りなんだろうな。髪質は父親…彼と違ってボサボサではないけど。性格は、フォーといる様子を見ればエドガー博士の気もするけど、支部長になっているということはトゥイさんにも似ている。五分五分というところか。

「両親は、どういう人だった?」
「貴方の両親でしょ。なんで僕に聞くの?」
「君も知っているだろう?両親はあの実験に忙しかった。それなりの教育はされたが、一緒にいる時間は短かったからな」

乾いた笑いを彼はした。それはとても寂しそうで、悲しそうだった。両親を失った場所で働くというのはどういう気持ちなのだろうか。僕にはわからない。でも、それは凄いことだと思う。両親の意志をついで、支部長に立っているのだから。「二人は……」ぽつりと僕は呟くように喋る。

「凄く優しい人だった。トゥイさんは、厳しい人ではあったけど芯がまっすぐしていた。最初は、苦手な人だった。冷たい目で人体実験に参加してたから。でも、ときどき悔しそうにしてた。自分じゃ教団に逆らえないから。人体実験の被験者を救えないことを悔しそうにしてた。たまに話してくれたよ。自分の息子には支部長になって教団の負の体質を変えてほしいって。
エドガー博士は、少し頼りない人だった。ひょろひょろって感じでトゥイさんにぼろくそ言われてたり、喧嘩の仲裁にはいったはずなのに被害を拡大しているたり。でも、笑顔を絶やさず浮かべていて、どこか安心した。隅で泣いているときとか、頭を撫でて何も落ち着くまで言わずに隣にいてくれた。大きくて、暖かい手だったの覚えてる」

二人とも、とても暖かい人だった。暖かくて、優しくて落ち着いた。大好きだった。

「だから、恨んでなんかいないよ。少なくとも、僕は」

第一、僕は被験者じゃない。だから、僕に対してそこまで罪悪に満ちた表情を浮かべなくてもいいんだよ。少なくとも、僕はあの人たちに救われたから。


 
MENU

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -