「ねえねえ!君は名前なんていうの?」 「……炎狼」 「それ、ファミリーネームでしょ?ファーストネームは?」 「……」 「おい、アルマ。いい加減にしてやれ」 「えーっ、だってせっかく年下で女の子がきたんだよ!仲良くしなきゃ!」 「……別に、仲良くする気ないから」
なんで、僕はこんな映像をみているのだろう。あれは、間違えなく神田ユウとアルマだ。
「君って花火って言うんだね!!」 「……どうして、知ってるの?」 「いつまでたっても教えてくれないから博士に聞いちゃった!僕のことはアルマって呼んでよ」 「僕に、近づかないほうがいいよ。呪われてるから」 「へ?」 「悪魔の子なんだよ。僕に近づけば不幸が起きるって村の人が言ってた」
そう。だから村もあんなにめちゃくちゃになってしまったんだ。幼いながらも僕はそれを自覚していた。だからクロス師匠以外、誰とも喋らないようにしていた。アニタには心許してしまったけど、それ以外は絶対に近づかないと決めていた。
「……ここ、なに?」 「僕たちはここで生まれたんだ!」 「どういうこと?だって、人は皆母親のお腹から産まれるんだよ」 「母親?なにそれ?」 「え……?」
彼らは母親の存在を理解していなかった。彼らが生誕したのは、冷たくて寒くて寂しい場所だった。
「お前、呪われてるつってたけどよ。ここで生まれた俺らよりましなじゃねえの?」 「……この世のものじゃないものがたくさん視える僕と比べれば、君たちのほうがましだと思うよ」 「じゃあ、お相子なんだろ」 「そうだよ!花火は全然呪われたりなんかしてない!僕たちが保障する!」 「それ、俺もはいってるのか」 「だって、ユウが言いだしっぺじゃん!花火をここにつれて、普通だって教えようって!本当はユウも心配だったんだろ?」 「馬鹿いってんじゃねえ!!」 「ふふふ……っ!」 「花火が笑った!」 「普通に笑えるんじゃねえか」 「ねえ、花火!独りになるのが嫌なんでしょ!だったら僕たちがずっと一緒にいて、守ってあげるよ!ね、ユウ」 「……なんで、俺まで……」
暖かい笑顔で言うから信用したのに、結局アルマが最初にいなくなったんじゃない。もう失わないように、大切に大切に両腕で抱えていたものはポロリと簡単に落ちてしまった。それを慌てて拾おうとしたのに、ポロポロと次々落ちてしまった。だから、いっそあのとき全て手放せたらどれだけ楽だったのだろうか。なのに、結局僕は強がってるだけで、独りで大丈夫と暗示をかけているだけで、本当は独りでいることなんて全然平気じゃなかった。
「ユウ、アルマ!約束だよ!絶対独りにしないでよ!」 「あたりまえだよ!」 「……まあ、いいけどな」 「えへへ、二人とも大好き!」
そうだ。昔は神田ユウの前でも素直に笑えてたんだ。アジア支部のできごとをさかえに、僕は笑おうとしなくなったんだ。大好きだと、ユウと呼んで懐いてた彼は最後まで約束を守ろうとして一緒にいてくれた。本部であったときがそうだった。でも、それを僕が自分から突き放したんだ。
「馬鹿だな。今気づいたとか」
本当は、僕は皆と仲良くしたかったんだ。一緒にいて、笑って、泣いて、怒って、喜んで。心配して、心配されて。『おかえり』といわれたら『ただいま』って言いたかったんだ。リーのことをリナリーと呼んで普通の友達になりたかったんだ。
──本当は、皆を大切な仲間だと思いたかったんだ。
その気持ちを、僕は気づかないふりをした。行動が遅くて後悔ことたくさんあるのにね。死の寸前に後悔するなんて遅いのにね。 ……ねえ、イノセンス。僕はまだ生きれるかな?まだ、戦えるよ。もう、負けないからさ。失いたくないんだ、大切な人たちを。 笑って僕を認めてくれる彼を、必死に僕を見失わないようにしがみつく彼女を、完全にこちら側になってはいけないのに感情移入している彼を……あの約束を律儀に守ろうとしている彼を。ほかにもたくさんいる。守りたいんだ、皆を。 お願い。まだ僕を生かして。戦わせて。もう、独りになろうとしないから。だから、もう一度だけチャンスをください。 どこかで、『がんばれ』と笑って背中を押す声がした。
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