狼娘物語 | ナノ



「それじゃあ任務について話すよ。いいかい、三人とも?」

室長が言う三人とは僕、アレン、兎のことである。僕等はあの後ブックマンから怒りの説教をくらい、罰として馬車での移動中正座でいるように言い渡された。僕にとって正座とは慣れているものなので平然と「うん」と返事を返せたが、慣れていない二人は足の痺れに堪えながら「「はい……」」と答えた。うん、足が痺れる中振動が大きい馬車はきついだろうね。ま、僕には関係ないけど。

「先日、元帥のひとりが殺されました」

珍しく真剣な表情で言われた室長の言葉。元帥が殺されるというのは普通ならばあってはいけない大事件。皆が息を呑んだのが分かった。

「殺されたのはケビン・イエーガー元帥。5人の元帥の中で最も高齢ながら常に第一線で戦っておられた人だった」

ケビン・イエーガー元帥。確か彼は元小学校の教師であり、一人の生徒がAKUMAになった悲劇がきっかけでエクソシストになった人のはず。お年寄りで不利だということもあっただろうけど、彼がやられるということは相手は相当の手強い奴だ。……おそらくノアだろう。彼のイノセンスを含めて九つ、ノアの手によって破壊されたことになる。そのなかにハートがなければいいのだが……。

「瀕死の重症を負い十字架に吊るされてもなお辛うじて生きていた元帥は息を引きとるまで歌を歌っていた」
「歌?」
「“せんねんこうはさがしてるぅ♪だいじなハートさがしてる…♪わたしはハズレ…つぎはダレ…♪”」

室長の歌に対して兎が「センネンコー?」と言っていたので「千年伯爵、愛称、千年公」と教えてやった。ノアの奴等の愛称を言うのは嫌だけど、千年伯爵なんて長ったらしい名前をずっというのも面倒なので、僕も千年公と呼んでいる。「"大事なハート"って…?」アレンの質問に室長は目を瞑り、喋りだした。

「我々が探し求めてる109個のイノセンスの中にひとつ、《心臓》と呼ぶべき核のイノセンスがあるんだよ。それはすべてのイノセンスの力の根源であり、すべてのイノセンスを無に帰す存在。それを手に入れて初めて終焉を止める力を得ることができる」
「伯爵、狙う。元帥、最初。彼等、確立大、考える」
「うん。花火ちゃんの言うとおり。最初の犠牲となったのは元帥だった。もしかしたら伯爵はイノセンスの適合者の中で特に力の在る者に《ハート》の可能性をみたのかもしれない」

クロス師匠からハートの話を聞いて、初めてヘブラスカを見たとき、彼女がハートなのかとも僕は考えた。だけど敵の行動を見るとその確立はどうやら低いようだ。

「でもそれよりももっと大きな問題があるんだ」
「問題、ですか?」
「その歌には続きがあるんだ。"せんねんこうはねらってるぅ♪せんそうのしんぱんしゃをねらってるぅ♪もうすぐいくよ、つかまえよう"」

《戦争の審判者》僕はその言葉にぴくりと微かに反応した。ちらりとブックマンを盗み見してみれば、彼も反応している様子だった。それもそうだろう。戦争の終焉が光と闇、どちらに左右するか大きな鍵となる人物の話なのだから。

「それがいったいなんの問題なんさ?」
「ハートのときは"探してる"と歌っていたけど戦争の審判者の場合"狙ってる"そう歌っていたんだ。最初はたいして気にとめていなかったんだけど、もしかしたら千年伯爵は戦争の審判者を見つけているんじゃないか。そう考えると非常に危険な状態なんだ」
「その、戦争の審判者を千年伯爵に捕まるとどうなるんですか?」
「戦争の審判者。それはこの白と黒の戦争の終焉を決める存在。力の差を考えれば黒の方が圧倒的に有利なこの戦い。でも彼等の目的を遂行するためには戦争の審判者により力が必要」

アレンの質問に僕が珍しく長々と喋り教えた。なんだ、クロス師匠。そのことも話してなかったのか。これくらいのことは教えてあげてよ。

「そう、花火ちゃんの言う通りなんだ。この戦争はハートと審判者、この二つを先に制した者勝利を掴む。……といってもその肝心の審判者の行方が全くわからなくてお手上げ状態なんだよね……」

室長が溜め息を吐いて疲れた表情を浮かべる。確かにあちらは狙ってると牽制してきたのにこちらはなんの手がかりもないというのはとてつもないプレッシャーとなるのだろう。


 
MENU

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -