狼娘物語 | ナノ



神田ユウ side

方舟を通してアジア支部まで飛んだ俺等。到着するなりクロス元帥が逃げようとしていたがリナリーがそれを止めていた。それでもなお逃げようとしていたが「あー、やっぱやめるか。精神不安定だろうし」と言って立ち止まった。モヤシたちは首を傾げていたが、俺はすぐわかった。おそらく、花火のことだろう。そういえば、アイツ……いなくないか?

「支部長!花火が帰ってきたってほんまか!?」
「正確にはエクソシスとの皆さんが、だ」
「で、花火は!?……おらへんやないか!!」

人の波を掻き分けてこっちにやってきた、赤が混じった茶髪の男。「花火ーー!!!」と花火の名前を叫んでいる。正直言ってウルセェ。なんだ、こいつは。モヤシが「お、落ち着いてください……」と宥めていると「花火は生きてるんか!?無事なん!?」とモヤシの肩を揺さぶる。スコーンと、なにかが男に向かって飛んでぶつかった。

「煩い。アレンの怪我に障る」
「……花火!!」
「そんなに心配しなくても帰るって言ったじゃん」
「嘘こけ!お前、ぜってーリルと一緒に……っ!!」

男は言葉をとめた。否、花火が目で黙らしたのだ。花火は男に近づき、「この子、お願い」と抱えていたナニかをゆっくりと手渡す。そのときに、ナニかにかかっていたあいつのコートが少しずれた。そこから見えたのはノアの遺体。……いや、ノアじゃねえ。あいつの幼馴染の遺体と言ったほうが正しいか。あいつは渡すだけ渡してふらふらと支部の奥へ歩いていく。力なく、生気なく、覇気なく歩いていく。男はその様子をみつめながら「……アンタが神田ユウやろ?」と俺に話しかける。

「だったらなんだ?」
「今の花火を一人にせんでくれへんか?」
「……お前がいかないのか?」
「俺も、あいつもリルが大好きやったんや。三人とも同じくらい。だから、リルを失った悲しみは同じくらいわかる。でもな、立場が違うんや。あいつは直接リルと戦った。俺は待つしかできなかった」

「そんな俺は何も言えない」悲しげに、寂しげに笑う。自分は非力だと嘲笑するように、嘆くように。俺は何も言わず、言えず舌打ちだけして花火を追うように歩き出した。


 
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