狼娘物語 | ナノ



ふわふわと浮遊感がする。暗い暗い闇に落ちるよう。まだ、僕は闇に沈むわけにはいかない。必死に上へ上へと這い上がろうとする。這い上がった先に、大好きな人たちの笑顔があった。ゆっくりと目を開けば、そこにはやはり闇が広がっていた。そうだ、僕はリルが落ちたのを見て飛び出したのだ。霊眼を発動させたままで、そこに広がる表現できないようなものに耐えられず、意識を手放した。……それから僕はいったい?「よお、目が覚めたか」ゴーレム越しでは最近聞いたけど、名までは久しく聞いていなかった低い声が鼓膜を震わせた。目を大きく開き、ゆっくり振り返った。

「クロ、ス師匠……」
「久しぶりだな、泣き虫弟子」

綺麗な赤い髪をした、クロス師匠がいた。貴方はいったい今までどこにいたんですか。なんで、こんなところにいるんですか。聞きたいことはたくさんあった。でも、その前にしなければいけないことがある。

「リル……は?」
「お前の幼馴染ならあそこだ」

クロス師匠が指でさしたところには、横たわるリルがいた。「リル!!」彼女の名前を呼びながらかけよる。返事がなかった。その時点でもう、想像ができていた。でも、いざそうなるとそれが嫌で、必死に彼女の名前を連呼する。握った手は酷く冷たかった。

「冷たい……」
「もともと、そいつは魂と無理矢理繋ぎあわされていた。だから肉体は砂と化しなかったんだな」

「それがせめての幸いだ」クロス師匠の言葉に「そ、うで、すね」つっかえつっかえに返す。肉体が残っていた。それはリルはノアとしてじゃなく、天瀬リルとして残ったということなのだ。ぽたりぽたりと涙が落ちる。ぎゅっと抱きしめてくれたリルは温かかったのに、今は凄く冷たいよ。手を握っても握り返されなくて、寂しいよ。

「リル……頑張ったね。苦しかったでしょう」

言葉にならないくらいの苦痛だったはずだよ。でも、僕のまえではそんな素振り一つ見せなかったね。目を閉じても、笑顔を浮かべるリルしか浮かんでこないよ。
僕にとって、リルは憧れだった。辛いときも苦しいときも、笑顔を絶やさずに皆を明るくしていたリルを尊敬していた。でも、僕はリルの幼馴染なんだよ。リルが僕を大好きだって言ってくれたように、僕だってリルが大好きなんだよ。僕だってリルを支えたかった。

「そいつ、幸せだったってよ。たくさんのありがとうを伝えてくれって言ってたぜ」
「僕だって、幸せだったよ。ありがとうだって……たくさん伝えたかった」

なのに、なんで僕が目を覚ます前に言っちゃうのさ。なんで、いつもリルは僕がいない間にいなくなっちゃうのさ。僕だってたくさん伝えたいことがあったのに。嗚咽をもらしながらリルを抱きしめる。ポンッと温かい手が僕の頭の上にのった。

「これは戦争だ。敵に流す涙はねえ」
「知って、ます」
「だが、お前はずっと炎狼家最大の巫女として、陰陽師の炎狼花火としてそいつと戦った。だから、そいつは敵じゃない。お前の幼馴染だ」
「クロス、ししょ……」
「身内が失ったときは我慢せずに声をあげて泣け」

なんで、こんなときの師匠は優しいのだろうか。僕は子供のように泣きじゃくった。


 
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